労作性狭心症 – 循環器の疾患

労作性狭心症(Angina of effort)とは、心臓の筋肉に十分な血液が行き渡らなくなる状態を指します。

体を動かしたり運動したりすると胸に痛みや圧迫感が生じ、休むと和らぐのが特徴です。

心筋梗塞のリスクを高めるため、早期の対応が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

労作性狭心症の種類(病型)

労作性狭心症は、症状の安定性や発症パターンによって、安定狭心症と不安定狭心症に分けられます。

特徴安定狭心症不安定狭心症
発症のパターン予測可能予測困難
安静時の症状まれ発生しうる
症状の程度一定変化しやすい

安定狭心症

安定狭心症は、労作性狭心症の中でも比較的予測可能な病型です。

一定の活動(歩行や重いものを持ち上げるなどの日常的な活動)や運動を行った際に、ほぼ同じような胸痛や胸部圧迫感が起きます。

症状は通常、数分程度で収まり、休息や薬の服用により改善します。

安定狭心症は症状の程度や発症のタイミングがある程度一定しているため、自身の状態を把握しやすい点が特徴です。

安定狭心症の特徴説明
発症のきっかけ一定の日常的な活動、運動
症状の持続時間数分程度
症状の改善方法休息や薬の服用

不安定狭心症

一方、不安定狭心症は安定狭心症と比べて予測が難しく、より注意が必要な病型です。

症状の発現パターンが一定せず、日常的な活動の程度に関係なく胸痛が起こります。

また、安静時にも症状が現れたり、胸痛の頻度や強さが増したりすることもあります。

不安定狭窄症は心筋梗塞への移行のリスクが高いため、症状の変化に気づいたらすぐに医療機関を受診することが大切です。

労作性狭心症の主な症状

労作性狭心症の主な症状は、運動や日常的な活動時に胸部の痛みや圧迫感が起こることです。

安静にすると、数分以内に症状は改善します。

胸部の痛み・圧迫感

労作性狭心症では、胸部の痛みや圧迫感が運動や日常的な活動時に突然現れ、胸の中央部や左側に不快感を感じます。

痛みの特徴

  • 締め付けられるような痛み
  • 重苦しいような痛み
  • 焼けるような感覚

胸部の痛みや圧迫感は必ずしも胸部だけにとどまらず、首や喉、顎、左腕、背中にまで広がることがあります。

労作性狭心症の特徴は、同じような状況で似たような症状が繰り返し起こることです。

例えば、重い荷物を持ったときに起こる、階段を上がった時に起こるなど、いつも同じようなときに症状が現れます。

再現性の特徴具体例
運動強度階段を2階分上がる
労作の種類重い荷物を持つ
環境要因寒冷環境での外出

症状の持続時間

労作性狭心症の症状は通常数分間続き、安静にしていると5分以内に改善します。

症状の特徴
発症のきっかけ運動や日常的な活動時
持続時間数分間
改善のタイミング安静時、通常5分以内

関連する症状

  • 息切れや呼吸困難
  • 吐き気
  • 冷や汗
  • めまいや立ちくらみ

労作性狭心症の原因

労作性狭心症の主な原因は、冠動脈の動脈硬化による血流の減少と、心筋への酸素供給不足です。

冠動脈の役割と動脈硬化

冠動脈は心臓に酸素と栄養を供給する重要な血管で、動脈硬化が進行すると内腔が狭くなり血流が制限されます。

その結果、心筋への酸素供給が不足して狭心症の症状が現れます。

労作性狭心症の主な危険因子

危険因子説明
高血圧血管壁への負担が増加
喫煙血管内皮の損傷を促進
高脂血症コレステロールの蓄積
糖尿病血管の機能障害を引き起こす

高血圧や禁煙などの危険因子は、動脈硬化の進行を加速します。

また、ストレスも労作性狭心症の原因の一つです。ストレスを感じると血圧上昇や心拍数増加が起きるため、心臓への負担を増大させます。

年齢と性別の影響

加齢とともに動脈硬化が進行しやすくなるため、年齢が上がるにつれてリスクが高くなります。

また、女性は閉経後にリスクが上昇する傾向があり、ホルモンバランスの変化が影響しているためだと考えられています。

年齢・性別リスク
若年層
中年以降増加
男性やや高い
女性閉経後に増加

診察(検査)と診断

労作性狭心症の診断では、心電図検査や運動負荷試験などを行います。

また、確定診断のために冠動脈造影検査を行う場合もあります。

診断のために行う検査

検査名目的
安静時心電図心臓の電気的活動を記録し、虚血性変化の有無を確認
胸部X線検査心臓の大きさや形状、肺の状態を評価
血液検査心筋梗塞マーカーや脂質プロファイルを確認

安静時には異常が見られないことも多いため、より詳細な検査が必要な場合もあります。

運動負荷試験

運動負荷試験は、運動中の心拍数や心電図などを測定し、心臓がどれくらいの運動に耐えられるかを評価する検査です。

運動中や運動直後に心電図上で虚血性変化が見られたり、胸痛などの症状が再現されたりした場合、労作性狭心症の可能性が高いと判断します。

画像診断

画像診断では、心臓の構造や機能をさまざまな角度から分析します。

  • 【心エコー検査】
    心臓の構造や機能を超音波で評価し、壁運動異常や弁膜症の有無を確認します。
  • 【核医学検査(心筋シンチグラフィ)】
    心筋の血流状態を放射性同位元素を用いて評価し、虚血の範囲や程度を詳細に把握します。
  • 【CT冠動脈造影】
    CTを用いて冠動脈の状態を非侵襲的に評価し、狭窄の有無や程度を三次元的に観察します。

画像診断では心臓の動きや冠動脈の状態をより詳しく把握できるため、労作性狭心症の診断精度を高めるとともに、他の心疾患との鑑別にも役立ちます。

確定診断のための冠動脈造影検査

確定診断のために行う冠動脈造影検査では、カテーテルを使って直接冠動脈に造影剤を注入し、X線透視下で冠動脈の狭窄や閉塞の有無を確認します。

狭窄度臨床的意義対応
50%未満軽度狭窄経過観察や生活習慣の改善
50-75%中等度狭窄薬物療法や慎重な経過観察
75%以上高度狭窄(有意狭窄)積極的な治療介入を検討

ただし、冠動脈造影検査は負担の大きい検査であるため、実施にあたっては慎重な判断が必要です。

労作性狭心症の治療法と処方薬、治療期間

労作性狭心症の治療では、薬物療法や生活習慣の改善、必要に応じて経皮的冠動脈形成術などの手術治療を行います。

薬物療法の基本

労作性狭心症の治療において、主に使用される薬剤には以下のようなものがあります。

薬剤の種類主な作用
硝酸薬冠動脈を拡張し、心臓の酸素需要を減少させる
β遮断薬心拍数と血圧を下げ、心臓の負担を軽減する
カルシウム拮抗薬冠動脈を拡張し、心臓の酸素需要を減少させる

薬物療法の目的は発作の予防と症状の緩和であり、定期的に服用することで狭心症の発作を予防します。

生活習慣の改善

薬物療法と並行して、生活習慣の改善も大切です。

  • 禁煙
  • 適度な運動
  • バランスの取れた食事
  • ストレス管理
  • 十分な睡眠

運動の種類や強度については、必ず主治医の指導を受けるようにしましょう。

外科的治療

薬物療法や生活習慣の改善で十分な効果が得られない場合、経皮的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)を検討します。

治療法特徴
PCIカテーテルを用いて狭窄した冠動脈を拡張する
CABGバイパス血管を用いて狭窄部位を迂回する

手術を受けた後も、再狭窄の予防のために薬物療法や生活習慣の改善を継続することが大切です。

治療期間について

労作性狭心症では、多くの場合長期的な管理が必要となります。

薬物療法は症状が安定していても継続します。突然中止すると症状の悪化を招くため、医師の指示に従って服用を続けることが大切です。

生活習慣の改善も一時的なものではなく、長期的な継続が必要です。

予後と進行予防

労作性狭心症の予後は、比較的良好とされています。

医師の指導に従い、生活習慣の改善に取り組むことで、支障なく日常生活を送ることができるようになります。

※ただし、個々の状態や背景疾患によって予後は異なります。

進行の可能性

労作性狭心症は進行する可能性のある病気です。進行リスクを高める要因には、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、喫煙習慣などがあります。

リスク要因影響
高血圧
喫煙
高脂血症
糖尿病
肥満

労作性狭心症が進行すると、狭心症の発作が頻発し予測不能になる不安定狭心症へ移行したり、心筋梗塞や心不全を発症するリスクもあります。

繰り返しになりますが、労作性狭心症の進行を予防するには生活習慣の改善が不可欠です。

特に禁煙は重要な予防策の一つとなりますので、タバコは必ず避けるようにしてください。

労作性狭心症の治療における副作用やリスク

労作性狭心症の治療に伴うリスクには、薬物療法では頭痛や動悸、カテーテル治療では出血や血管の損傷、外科手術では麻酔のリスクや感染症などが挙げられます。

薬物療法の副作用

労作性狭心症の治療で使われる主な薬剤とその副作用は、以下のとおりです。

薬剤主な副作用
硝酸薬頭痛、めまい、低血圧
β遮断薬疲労感、めまい、徐脈
カルシウム拮抗薬むくみ、便秿、頭痛

外科的治療のリスク

カテーテル治療や冠動脈バイパス術などの手術には、一定のリスクが伴います。

  • 出血
  • 感染
  • 血栓形成
  • 再狭窄
  • 心筋梗塞
  • 脳卒中

薬物相互作用のリスク

労作性狭心症の治療では複数の薬剤を併用することが多いため、薬物相互作用のリスクに注意が必要です。

代表的な薬物相互作用の例

併用薬相互作用のリスク
降圧薬過度の血圧低下
抗凝固薬出血リスクの増加
勃起不全治療薬急激な血圧低下

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

労作性狭心症の治療費は、治療法(薬物療法、カテーテル治療、外科手術など)、入院期間、合併症の有無などによって大きく異なります。

薬物療法にかかる費用

β遮断薬、カルシウム拮抗薬などの薬剤費用は、月額5,000円から20,000円程度が目安です。

薬剤の種類月額費用の目安
硝酸薬5,000円~10,000円
β遮断薥8,000円~15,000円
カルシウム拮抗薬10,000円~20,000円

診断・経過観察のための検査費用

労作性狭心症の診断のために行う代表的な検査とその費用は以下の通りです。

  • 心電図検査:5,000円~10,000円
  • 運動負荷心電図検査:15,000円~25,000円
  • 心臓超音波検査:10,000円~20,000円
  • 冠動脈CT検査:50,000円~80,000円

検査費用は医療機関によって多少の違いがありますが、健康保険の適用により、実際の自己負担額は上記の3割程度となります。

カテーテル治療の費用

治療内容費用の目安
冠動脈造影150,000円~200,000円
経皮的冠動脈形成術(バルーン拡張)800,000円~1,200,000円
ステント留置術1,200,000円~1,800,000円

カテーテル治療や外科手術も健康保険の適用となります。

以上

References

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