リンパ浮腫 – 循環器の疾患

リンパ浮腫(Lymphedema)とは、リンパ管の機能不全や障害が原因で、体内のリンパ液の流れが滞ってしまう病気です。

皮下組織にリンパ液が過剰に溜まってしまい、むくみが生じます。

リンパ節郭清を伴うがん手術や放射線治療後の合併症として発症するケースが多いですが、先天性のリンパ管奇形が原因で起こる場合もあります。

放置すると感染症のリスクが高まるなど重症化の恐れがあるため、注意が必要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

リンパ浮腫の種類(病型)

リンパ浮腫は段階的に進行していく疾患であり、国際リンパ学会(ISL)により0期からⅢ期までの4つの病期に分類されています。

病期症状
0期目に見える症状は現れていない
Ⅰ期圧痕が残るような柔らかい浮腫
Ⅱ期不可逆的な皮膚の変化が起こる
Ⅲ期象皮症となり、感染症のリスクが増大する

0期(潜在期)

0期(潜在期)はリンパ浮腫の初期段階で、まだ目に見える症状は現れていないのが特徴です。

ただし、リンパの流れはすでに滞っているため、放置すると次の段階に進行してしまうおそれがあります。

Ⅰ期(可逆期)

Ⅰ期では、圧痕が残るような柔らかい浮腫が現れ始めるのが特徴的な症状です。

Ⅰ期は、まだ浮腫の改善が見込める可逆的な状態であると言えるため、この時期での治療開始が症状の悪化を防ぐためには重要となります。

Ⅱ期(不可逆期)

  • 皮膚の線維化が進行する
  • 圧痕が残らない硬い浮腫が現れる
  • リンパ液の流れが著しく悪化する

さらに進行すると、Ⅱ期(不可逆期)へと移行します。Ⅱ期に至ると完全な改善は難しく、不可逆的な状態だと言えます。

この時期の浮腫はⅠ期に比べてより硬く、圧痕が残りにくいのが特徴です。

加えて、皮膚の肥厚やフィブロースと呼ばれる変化も現れ始めます。

Ⅲ期(象皮期)

リンパ浮腫が最終的な段階に達すると、Ⅲ期(象皮期)に至ります。

この時期は象皮症と呼ばれる状態となり、皮膚が著しく硬くなって凹凸が現れるのが特徴です。

リンパ液の流れは著しく悪化し、感染症を引き起こすリスクも高まります。

リンパ浮腫の主な症状

リンパ浮腫の主な症状は、患部の腫れや重だるさ、圧痕性浮腫などがあります。

患部の腫れと重だるさ

リンパ浮腫の最も典型的な症状は、患部の腫れと重だるさです。

リンパ液が滞って組織に水分がたまり、腫れが生じます。

朝起きた時は腫れが和らいでいても、日中の動作によって夕方には腫れが悪化するといったことがよく見られます。

時間帯症状の変化
腫れが軽減
日中活動によって腫れが増悪
夕方腫れが増悪

また、腫れによって患部が重く感じられるのも特徴的な症状の一つです。

リンパ液がたまって組織の容積が大きくなるため、重力の影響を受けやすくなります。

圧痕性浮腫

リンパ浮腫では、圧痕性浮腫と呼ばれる特徴的な症状が見られます。

これは、腫れた部位を指で押すと、その部分にくぼみ(圧痕)ができてしまう現象です。

一方、静脈性浮腫などでは、圧痕ができにくいという違いが見られます。

リンパ浮腫静脈性浮腫
圧痕ができやすい圧痕ができにくい

皮膚の変化

リンパ浮腫が長引くと、皮膚が硬くなったり、分厚くなったりと、皮膚にも変化が現れる場合があります。

また、リンパ液のうっ滞によって皮膚の栄養状態が悪くなり、皮膚炎を起こす場合もあります。

その他の症状

  • 患部の疼痛や不快感
  • リンパ液の漏出によるリンパ漏
  • 蜂窩織炎などの感染症の併発

これらの症状は、リンパ浮腫の重症度によって現れ方が異なります。

症状が軽い場合は日常生活に大きな支障はありませんが、重症になると生活の質が大きく低下します。

リンパ浮腫の原因

リンパ浮腫は大きく分けると一次性と二次性の2つのタイプがあり、原因が異なります。

タイプ原因
一次性原因不明(突発性)
二次性後天的な要因による

一次性リンパ浮腫の原因

一次性リンパ浮腫は、原因が明らかではなく、突発的に発症するものです。

明確な原因が特定されておらず、多くは思春期から40歳くらいまでの年齢層で発症する場合が多いとされています。

二次性リンパ浮腫の原因

二次性リンパ浮腫は、生まれてからの何らかの原因でリンパ管やリンパ節に障害が生じて起こります。

主な原因としては、次のようなものが挙げられます。

原因説明
がんの治療手術や放射線治療によるリンパ管やリンパ節の損傷
感染症リンパ管炎などの感染症
外傷外傷や骨折などによるリンパ管の損傷
肥満肥満などによるリンパ液の流れの阻害

診察(検査)と診断

リンパ浮腫の臨床診断は、目視、触診、画像検査などを組み合わせて行われます。

確定診断には、リンパ管シンチグラフィーやリンパ管造影などの特殊な検査が用いられます。

身体所見の評価

評価項目内容
症状むくみの場所、程度、続いている期間、一日の中での変化、伴う症状
身体所見むくみの広がり、性質、皮膚の状態、腕や脚の周りの長さ

むくみの広がりや性質を目視と触診で評価するのが一般的な方法です。

また、皮膚の色の変化、皮膚の溝の消失、指で押したときの跡の有無なども確認します。

臨床診断のための検査

  • 超音波検査:皮膚の下の組織のむくみの程度や広がりを評価できます。
  • CT検査:深部のリンパ管や周囲の組織の状態を観察できます。
  • MRI検査:リンパ管の走行や詰まっている場所を特定できることがあります。

これらの画像検査は、むくみの広がりや重症度を客観的に評価できます。また、リンパ浮腫と区別が必要な病気を除外するためにも役立ちます。

確定診断のための特殊検査

検査名内容
リンパ管シンチグラフィーリンパの流れの評価、リンパ管の詰まりや逆流の発見
リンパ管造影リンパ管の形の異常の描出
ICG蛍光リンパ管造影リンパ管の走行や詰まっている場所のリアルタイムな評価

これらの検査により、リンパ管の形や機能の異常を直接的に評価できます。

リンパ浮腫の治療法と処方薬、治療期間

リンパ浮腫の治療は、リンパ液の流れを改善し、腫れを和らげることが目的です。

治療法は主に、圧迫療法、運動療法、用手的リンパドレナージ、スキンケアを組み合わせて行われます。

圧迫療法

圧迫療法では、弾性包帯やコンプレッションガーメントを使って患部を圧迫します。

これによって、リンパ液の流れが促進され、腫れが軽減されます。

圧迫の種類特徴
弾性包帯伸縮性があり、圧迫力を調整しやすい
コンプレッションガーメント既製品または オーダーメイドで作成され、長時間の着用が可能

運動療法

運動療法は、筋肉のポンプ作用を利用してリンパ液の流れを促進する方法です。

患部の運動やストレッチ、ウォーキングなどが推奨されています。

用手的リンパドレナージ

用手的リンパドレナージは、手技を用いてリンパ液の流れを促進する治療法です。

リンパの流れに沿って、ゆっくりとした圧迫やマッサージを行います。

スキンケア

リンパ浮腫のある皮膚は感染リスクが高いので、スキンケアが大切です。

保湿を十分に行い、清潔に保つことが求められます。

  • 保湿剤の使用
  • 刺激の少ない石鹸の使用
  • 入浴後の保湿

処方される場合が多い主な治療薬

処方薬効果
利尿剤体内の余分な水分を排出し、腫れを軽減
抗生物質感染症の予防と治療

予後と再発可能性および予防

リンパ浮腫は再発のリスクが高い病気です。患者さん自身が積極的にセルフケアに取り組むことが肝要です。

予後

治療により症状が改善しても、リンパ管の機能自体は回復しないため、治療を中断すると再び症状が悪化する可能性が高くなります。

再発の可能性と予防法

リンパ浮腫は慢性的な疾患であり、治療を継続しても完治は難しいとされています。

再発を防ぐためには、日常的なセルフケアが不可欠です。

  • 圧迫着衣の着用
  • スキンケアによる皮膚トラブルの予防
  • 適度な運動とストレッチ
  • リンパドレナージの継続

リンパ浮腫の治療における副作用やリスク

リンパ浮腫の治療を行う際には、副作用やリスクが伴う場合があります。

治療の副作用

副作用症状
皮膚の炎症発赤、かゆみ、腫れ
感染症発熱、腫れ、痛み

これらの副作用は、治療の種類や体質によって異なります。副作用が現れた際は、速やかに医療従事者に相談してください。

治療のリスク

リスク内容
症状悪化浮腫の増悪、疼痛の増強
合併症蜂窩織炎、リンパ管炎など

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

リンパ浮腫の治療は、原則として公的医療保険の適用対象となります。

治療費の内訳

  1. 診察料
  2. 検査料(リンパ管シンチグラフィー、CT、MRIなど)
  3. 治療料(圧迫療法、用手的リンパドレナージ、圧迫着衣、薬物療法など)
  4. 入院料(重症な場合)

治療費の目安

項目費用の目安
診察料3,000円~5,000円
検査料10,000円~50,000円

ただし、これはあくまでも目安であり、実際の治療費は個々のケースによって異なります。

治療費について詳しくは各医療機関へ直接ご確認ください。

以上

References

WARREN, Anne G., et al. Lymphedema: a comprehensive review. Annals of plastic surgery, 2007, 59.4: 464-472.

MACLELLAN, Reid A.; GREENE, Arin K. Lymphedema. In: Seminars in pediatric surgery. WB Saunders, 2014. p. 191-197.

CHEVILLE, Andrea L., et al. Lymphedema management. In: Seminars in radiation oncology. WB Saunders, 2003. p. 290-301.

PETREK, Jeanne A.; PRESSMAN, Peter I.; SMITH, Robert A. Lymphedema: current issues in research and management. CA: a cancer journal for clinicians, 2000, 50.5: 292-307.

MORTIMER, Peter S. The pathophysiology of lymphedema. Cancer: Interdisciplinary International Journal of the American Cancer Society, 1998, 83.S12B: 2798-2802.

COHEN, Sara R.; PAYNE, David K.; TUNKEL, Richard S. Lymphedema: strategies for management. Cancer: Interdisciplinary International Journal of the American Cancer Society, 2001, 92.S4: 980-987.

ROCKSON, Stanley G.; RIVERA, Kahealani K. Estimating the population burden of lymphedema. Annals of the New York Academy of Sciences, 2008, 1131.1: 147-154.

GRADA, Ayman A.; PHILLIPS, Tania J. Lymphedema: Pathophysiology and clinical manifestations. Journal of the American Academy of Dermatology, 2017, 77.6: 1009-1020.

KO, Dicken SC, et al. Effective treatment of lymphedema of the extremities. Archives of Surgery, 1998, 133.4: 452-458.

OZASLAN, Cihangir; KURU, Bekir. Lymphedema after treatment of breast cancer. The American Journal of Surgery, 2004, 187.1: 69-72.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。