仮面高血圧 – 循環器の疾患

仮面高血圧(Masked hypertension)とは、医療機関で測定した血圧は正常範囲内であるものの、日常生活における血圧測定で高血圧の基準を満たす状態を言います。

仮面高血圧は自覚症状がほとんどなく、病院での血圧測定では正常範囲内に収まるため、高血圧の存在に気づきにくいという特徴があります。

仮面高血圧を放置すると心血管疾患のリスクが高まると分かっているため、早期発見と早期対応が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

仮面高血圧の種類(病型)

仮面高血圧は早朝高血圧、昼間高血圧、夜間高血圧の3つのタイプに分類されます。

仮面高血圧は診察室では正常血圧を示すため、見落とされやすい病態です。

しかし、早朝・昼間・夜間の高血圧は心血管疾患のリスクを高めるため、適切な診断が欠かせません。

早朝高血圧

早朝高血圧とは、診察室血圧が140/90mmHg未満で、起床後1時間以内の血圧が135/85mmHg以上となる状態を指します。

早朝の血圧上昇は心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性があるため、注意が必要です。

昼間高血圧

昼間高血圧は日中の活動時間帯に血圧が高くなる状態であり、ストレスや運動などが一時的な血圧上昇を引き起こす場合があります。

以下の条件を満たす場合、昼間高血圧と判定されます。

  • 診察室血圧が正常範囲内である
  • 家庭血圧や24時間血圧測定での日中の平均血圧が135/85mmHg以上である

夜間高血圧

夜間高血圧は睡眠中の血圧が高い状態(120/70mmHg以上)を指し、夜間の血圧下降が十分でない状態を意味します。

通常、夜間の血圧は日中よりも10~20%程度下がるのが正常です。

夜間高血圧は心血管疾患のリスクを高める要因となります。

仮面高血圧の主な症状

仮面高血圧は、一見すると高血圧の症状が現れにくいため、発見が遅れがちです。

しかし、そのまま放っておくと重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、症状を見落とさないようにすることが重要です。

仮面高血圧で考えられる症状
  • 頭痛やめまい
  • 動悸や息切れ
  • 睡眠障害
  • 胸痛や肩こり

頭痛やめまい

仮面高血圧の症状の一つに、頭痛やめまいが挙げられます。これらの症状は、血圧の急激な上昇により引き起こされると考えられています。

頭痛やめまいが頻繁に起こるようであれば、仮面高血圧の可能性を疑ってみる必要があります。

症状特徴
頭痛後頭部や側頭部に痛みを感じる
めまい立ちくらみや回転性のめまいを感じる

動悸や息切れ

仮面高血圧では、動悸や息切れといった心臓に関連する症状も現れる場合があります。

高血圧による心臓への負担により引き起こされ、 特に、運動時や精神的ストレスを感じた際に症状が強くなる傾向が見られます。

睡眠障害

高血圧によって睡眠中の血圧変動が大きくなり、不眠や中途覚醒などの睡眠障害につながる場合があります。

睡眠障害の種類症状
不眠症寝つきが悪い、夜中に目が覚める
睡眠時無呼吸症候群いびきをかく、睡眠中の呼吸が止まる

胸痛や肩こり

高血圧によって血管が収縮し、筋肉に負担がかかることで、胸痛や肩こりといった症状も見られることがあります。

胸痛や肩こりが慢性的に続くようであれば、仮面高血圧の可能性を考慮に入れる必要があります。

仮面高血圧の原因

仮面高血圧は、早朝、昼間、夜間と血圧が上昇するそれぞれの時間帯により、特有の原因が関与していると考えられています。

早朝高血圧の原因

早朝高血圧には、アルコール摂取や喫煙が主な原因です。

その他、寒冷刺激、起立性高血圧、加齢、作用時間の短い降圧薬の使用なども関与していると考えられています。

原因早朝高血圧への影響
アルコール摂取深夜から早朝にかけての血圧上昇を引き起こす
喫煙一時的に血圧を上昇させ、早朝高血圧のリスクを高める

昼間高血圧の原因

昼間高血圧は、日中の活動時における職場や家庭でのストレスが主な原因です。

精神的ストレスや身体的ストレスが、血圧上昇を引き起こします。

  • 仕事上のプレッシャー
  • 人間関係のストレス
  • 家事や育児による身体的疲労

夜間高血圧の原因

夜間高血圧には、心不全、腎不全、自律神経障害、睡眠時無呼吸症候群などが関与していると考えられています。

原因夜間高血圧への影響
心不全心機能の低下により、夜間の血圧が上昇しやすくなる
腎不全体液量の調節機能が低下し、夜間の血圧上昇につながる

診察(検査)と診断

仮面高血圧の診断を確実に行うには、外来血圧測定だけでは限界があります。

家庭血圧測定や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の活用がポイントです。

家庭血圧測定の重要性

家庭血圧測定は、仮面高血圧の診断に有用な手段です。以下の基準を満たす場合、仮面高血圧の可能性が高いと考えられます。

  • 外来血圧が正常範囲内であるにもかかわらず、家庭血圧が高値である
  • 朝の家庭血圧が135/85mmHg以上である
  • 就寝前の家庭血圧が120/70mmHg以上である
時間帯収縮期血圧拡張期血圧
135mmHg以上85mmHg以上
就寝前120mmHg以上70mmHg以上

24時間自由行動下血圧測定(ABPM)の役割

ABPMは日常生活における血圧変動を評価でき、仮面高血圧の確定診断に役立ちます。

以下の基準を満たすときには、仮面高血圧と診断されます。

  • 24時間平均血圧が130/80mmHg以上である
  • 昼間平均血圧が135/85mmHg以上である
  • 夜間平均血圧が120/70mmHg以上である
測定項目収縮期血圧拡張期血圧
24時間平均130mmHg以上80mmHg以上
昼間平均135mmHg以上85mmHg以上
夜間平均120mmHg以上70mmHg以上

仮面高血圧の治療法と処方薬

仮面高血圧の治療の基本は、生活習慣の改善と薬物療法の組み合わせです。

生活習慣の改善

生活習慣の改善具体的な方法
減塩1日6g未満に抑える
運動1日30分以上の有酸素運動
禁煙ニコチンの摂取を避ける
節酒1日純アルコール20g以下
減量標準体重の維持

薬物療法

薬物療法では、以下のような薬剤が使用されます。

薬剤作用機序
カルシウム拮抗薬血管平滑筋の弛緩
ARB血管収縮物質の作用を抑制
ACE阻害薬血管収縮物質の生成を抑制
利尿薬体内の余分な水分・ナトリウムの排出

治療に必要な期間と予後について

仮面高血圧の治療に必要な期間と予後は患者さんの状態によって異なるため、一概に定めることは難しいです。

未治療の仮面高血圧は、心血管疾患のリスクを高める可能性があります。

ただし、薬物療法と生活習慣の改善により予後は改善されることが一般的です。

治療期間の目安

一般的な目安は下記のとおりです。

症状の重症度治療期間の目安
軽度3〜6ヶ月
中等度6〜12ヶ月
重度12ヶ月以上

定期的な血圧モニタリングの必要性

仮面高血圧の患者さんは、定期的な血圧モニタリングが不可欠です。以下は、推奨される血圧モニタリングの頻度です。

  • 治療開始後1〜2週間:毎日
  • 治療開始後1〜2ヶ月:週2〜3回
  • 治療開始後2〜3ヶ月:週1回
  • 安定した状態:月1回

予後の改善

仮面高血圧の治療と管理により、以下のようなリスクを低減することができます。

  • 心血管疾患のリスク
  • 脳卒中のリスク
  • 腎臓病のリスク
  • 早期死亡のリスク

仮面高血圧の治療における副作用やリスク

仮面高血圧の治療に用いられる降圧薬には、副作用があります。

降圧薬の副作用

降圧薬の副作用にはめまい、頭痛、倦怠感などがあり、血圧が急激に低下するため起こります。

また、電解質異常や腎機能障害など、深刻な副作用が生じる可能性もあります。

副作用症状
めまいふらつき、立ちくらみ
頭痛頭の痛み、重苦しさ
倦怠感全身のだるさ、疲労感

治療の中断による危険性

仮面高血圧の治療を中断すると、血圧が再上昇し、脳卒中や心筋梗塞などの重大な合併症を引き起こすリスクが高まります。

治療の継続が大切であり、医師の指示に従い、治療を途中でやめないようにしましょう。

予防方法

仮面高血圧を未然に防ぐには、日々の生活習慣の見直しが欠かせません。

食事の工夫

塩分の取りすぎは血圧上昇の原因になるので、食事の際は減塩が大切です。

汁物の量を控えたり、味付けは薄味を心がけましょう。

運動

適度な運動には血圧を下げる効果があります。

ただし急激な運動は逆効果になる場合もあるため、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を日課にしましょう

ストレス対策

ストレスも血圧上昇の一因です。ストレスを溜め込まないよう、自分に合ったストレス発散法を身につけましょう。

深呼吸をしたり、散歩を日課にするのも有効です。

禁煙

喫煙は動脈硬化を進行させ、血圧上昇の原因となります。禁煙が難しいときは、医療機関の禁煙外来を利用するのも一案です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

仮面高血圧の治療費用は、健康保険の適用対象です。

治療費の目安

仮面高血圧の治療費は、主に診察料、検査料、投薬料となります。検査料は、血圧測定や心電図検査なども含まれます。

投薬料は降圧薬の種類や量によって異なりますが、1ヶ月分で数千円程度が一般的です。

費用項目概算金額
診察料2,820円~720円
検査料数千円~数万円
投薬料数千円/月

以上

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