Fallot四徴症(TOF)(ファロー四徴症) – 循環器の疾患

Fallot四徴症(Tetralogy of Fallot:TOF, ファロー四徴症)とは、心臓の4つの異常が同時に存在する複雑な心臓の構造的欠陥です。

新生児約3,000人に1人の割合で発生するこの疾患は、心室中隔欠損、肺動脈狭窄、大動脈騎乗、右室肥大という特徴的な異常を伴います。

これらの異常により、酸素が十分に供給されない血液が体内を循環することになり、生活に様々な影響を及ぼします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Fallot四徴症(TOF)(ファロー四徴症)の主な症状

Fallot四徴症(TOF)の主要症状は、チアノーゼ、呼吸困難、易疲労感、そして成長発達遅延です。

チアノーゼ

Fallot四徴症の最も顕著な症状はチアノーゼで、体内の酸素不足が原因で引き起こされる皮膚や粘膜の青紫色化を指します。

特に唇や爪床、舌などに明確に現れる場合が多く、運動時や泣くときに悪化する傾向があります。

チアノーゼの程度は心臓の奇形の重症度によって変わり、軽度の場合は運動時のみに現れる場合もあります。

一方で、重度の場合は出生直後から、常にチアノーゼが観察されます。

チアノーゼは体内の酸素供給不足を示すサインであり、早急な医療介入が必要です。

また、長期的なチアノーゼは脳や他の重要な臓器に影響を与える可能性があるため、迅速な対応が求められます。

呼吸困難

心臓の構造異常により十分な酸素が体内に供給されないため、呼吸困難が生じます。

呼吸困難は、軽度の息切れから重度の喘ぎまで、様々な程度で現れます。

幼児や小児の場合はこの症状により、遊びや学校活動が制限されるケースもあります。

症状の程度特徴
軽度運動時のみ息切れ
中等度日常活動で息切れ
重度安静時でも呼吸困難

易疲労感

易疲労感は、心臓の機能低下による血液循環の不全が原因です。

日常的な活動でも急速に疲労を感じ、特に幼児や学童期の子どもでは同年齢の子どもたちと比べて体力が劣ることがあります。

成長発達遅延

慢性的な酸素不足と栄養吸収の問題により、身長や体重の増加が同年齢の健康な子どもと比べて遅れる傾向があります。

特に乳幼児期において、この成長遅延が顕著に現れます。

また、運動能力の発達も遅れる可能性があり、這う、歩く、走るなどの発達が遅れる場合もあります。

また、認知発達においても軽度の遅れが見られるケースがあります。

その他の症状

  • 心雑音(特徴的な機械音様の雑音)
  • 太鼓バチ状指(指先が太鼓のばちのように丸くなる)
  • 失神または意識消失発作
  • 不整脈
  • 食欲不振

Fallot四徴症(TOF)(ファロー四徴症)の原因

ファロー四徴症は、胎児期の心臓の発生過程における異常により、心臓の構造に4つの特徴的な欠陥が生じる先天性心疾患です。

ファロー四徴症(TOF)の4つの特徴的な異常
  1. 肺動脈弁狭窄
  2. 心室中隔欠損
  3. 大動脈騎乗
  4. 右心室肥大

ファロー四徴症のうち、肺動脈閉鎖を伴うものを極型Fallot四徴症/ファロ-四徴症肺動脈閉鎖(TF/PA)と呼びます。

遺伝的要因の影響

Fallot四徴症(TOF)の発症には遺伝的要因が関与していて、特に、心臓の発生に関わる遺伝子群の変異がTOFの発症リスクを高めることが知られています。

例えば、NKX2.5、GATA4、JAG1などの遺伝子の変異が代表的です。

これらの遺伝子は、心臓の構造形成や血管の発達に重要な役割を果たしているため、その機能異常が心臓の構造的欠陥につながります。

しかし、遺伝子変異があるからといって、必ずTOFを発症するわけではありません。

遺伝的素因は、環境要因との相互作用によって疾患の発症に影響を与えます。

遺伝子機能
NKX2.5心臓発生の制御
GATA4心筋細胞の分化
JAG1心臓弁の形成

環境要因の役割

妊娠初期のウイルス感染、特に風疹ウイルスへの感染がTOFを含む先天性心疾患のリスクを高めます。

また、妊娠中の母体の栄養状態、特に葉酸の不足も心臓の発生異常のリスクを増加させる要因の一つです。

そのほか、妊娠中の喫煙、アルコール摂取、特定の薬物の使用なども胎児の心臓発生に悪影響を与えると考えられています。

心臓発生過程での異常

TOFの直接的な原因は、胎児期における心臓の発生過程での異常です。

具体的には、胎生6〜8週頃に起こる心臓の中隔形成と大血管の発生過程での異常が、TOFの特徴的な4つの異常(肺動脈狭窄、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室肥大)をもたらします。

この時期、心臓の流出路中隔が正常に形成されず、肺動脈と大動脈の分離が不完全になることでTOFの基本的な構造異常が生じます。

診察(検査)と診断

ファロー四徴症は、聴診による心雑音やチアノーゼの確認、胸部X線検査、心電図検査などの所見から疑われ、心臓超音波検査によって診断が確定されます。

検査法特徴
心電図右室肥大、右軸偏位の評価
胸部X線木靴型心陰影の確認
心エコー心臓構造の視覚的評価
心臓カテーテル心内圧測定、血管造影
MRI/CT3次元的心臓構造の詳細な描出

身体診察

観察項目特徴的な所見
皮膚色チアノーゼ
心音収縮期雑音
指趾ばち状変形
呼吸頻呼吸

非侵襲的検査の実施

心電図検査では、右室肥大や右軸偏位などの特徴的な所見が確認されます。

また、胸部X線検査では「木靴型心陰影」がみられるのが特徴です。

心エコー検査は、心臓の構造異常を視覚的に評価できる点で極めて有用となります。

精密検査による確定診断

非侵襲的検査で得られた情報を基に、より詳細な評価が必要と判断された場合、精密検査が実施されます。

心臓カテーテル検査は心内圧の測定や血管造影を可能にし、解剖学的異常を精密に調べられます。

ただ、侵襲的な性質を持つため適応は慎重な判断が必要です。

Fallot四徴症(TOF)(ファロー四徴症)の治療法と処方薬、治療期間

ファロー四徴症(TOF)の治療法は、主に外科手術が中心となります。治療のタイミングや手術の種類は、症状の重症度や年齢によって異なります。

外科的治療

根治手術は通常、生後6か月から2歳の間に行われます。

この手術では、心室中隔欠損の閉鎖、肺動脈狭窄の解除、右室流出路の拡大、大動脈の右室騎乗の修正などが実施され、心臓の構造的異常を修復します。

手術の成功率は高く、多くのケースで正常に近い心機能を回復できます。

手術の種類主な目的実施時期
姑息手術症状緩和乳児期
根治手術完全修復幼児期

薬物療法: 症状管理と合併症予防

手術前後の期間において、β遮断薬やACE阻害薬などの心臓薬が使用されることがあり、これらは心臓への負担を軽減し、血行動態を安定させる効果があります。

また、利尿薬は体内の余分な水分を排出し、心臓への負荷を減らすのに役立ちます。

治療期間

Fallot四徴症の治療は一度の手術で完結するものではなく、生涯にわたる管理が必要です。

手術後も定期的な心臓検査や画像診断を行い、心機能や弁機能の評価を継続します。

長期的な合併症として不整脈や心不全のリスクが存在するため、成人期に入ってからも、定期的に心臓評価を受けることが推奨されます。

フォローアップ項目頻度目的
心エコー検査年1回心機能評価
心電図年1回不整脈検出
運動負荷試験1-2年ごと運動耐容能評価

予後と再発可能性および予防

Fallot四徴症では、多くの場合、根治手術によって良好な長期予後が期待できます。

長期的な予後と生存率

Fallot四徴症の長期的な予後は、ここ数十年で飛躍的に改善しました。

現在では、適切な治療を受けた患者の多くが成人期を迎え、中には高齢まで元気に過ごす方もいます。

具体的な数字を見ると、手術を受けた場合の30年生存率は98%と報告されています。

合併症のリスクと予防策

Fallot四徴症の治療後も、いくつかの合併症のリスクが残ります。主な合併症には次のようなものがあります。

  • 不整脈
  • 心不全
  • 感染性心内膜炎
  • 突然死

これらの合併症を予防するためには、健康的な生活習慣の維持が欠かせません。

具体的には、適度な運動、バランスの取れた食事、禁煙、適正体重の維持などが推奨されています。

合併症予防策
不整脈定期的な心電図検査、ストレス管理
心不全適度な運動、塩分制限
感染性心内膜炎口腔衛生の維持、予防的抗生物質

妊娠・出産に関する注意点

Fallot四徴症の治療を受けた女性の多くは、妊娠・出産が可能となっています。

ただし、妊娠中は心臓への負担が増大するため、特別な配慮が必要です。

妊娠を希望する場合は、事前に循環器専門医と産婦人科医の両方に相談し、詳細な計画を立てることが望ましいと言えます。

Fallot四徴症(TOF)(ファロー四徴症)の治療における副作用やリスク

ファロー四徴症の治療における副作用やリスクは、手術による合併症(出血、感染、不整脈など)、薬物療法による副作用(低カリウム血症、不整脈など)があります。

手術に関連する短期的リスク

術中および術後早期に発生する可能性のある合併症には、出血、感染症、不整脈などがあります。

手術直後の回復期には、人工呼吸器の使用が必要となる場合があり、それに伴う肺炎のリスクも考慮する必要があります。

リスク発生率
出血5-10%
感染症2-5%
不整脈10-15%
肺炎3-7%

薬物療法に関連するリスクと副作用

主な薬物療法とその潜在的な副作用は以下のとおりです。

薬剤分類主な副作用
抗不整脈薬新たな不整脈、臓器毒性
利尿薬電解質異常、脱水
抗凝固薬出血傾向

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ファロー四徴症の治療費は高額になる場合があるため、公的医療保険や高額療養費制度、難病医療費助成制度などの利用が可能です。

初期治療の費用内訳

項目概算費用
手術料150万円〜200万円
入院費30万円〜50万円
術後ケア20万円〜50万円

手術料には麻酔代や医療材料費も含まれており、入院費は平均2週間程度の入院を想定しています。

術後ケアには退院後のリハビリテーションや投薬治療なども含まれます。

定期検査と通院の費用

手術後も定期的な検査や通院が必要です。心エコー検査やレントゲン撮影、血液検査などが定期的に行われ、それぞれの検査費用や診察料がかかります。

また、必要に応じて投薬治療も行われるため、薬剤費も発生します。

幼児期は手術後の経過観察が集中するため費用が高くなりがちです。学童期から成人期にかけては、状態が安定すれば費用は徐々に減少していく傾向です。

経済的支援制度

  1. 小児慢性特定疾病医療費助成制度:18歳未満の患者さんが対象で、医療費の自己負担額が軽減されます。
  2. 特定医療費(指定難病)助成制度:18歳以上の患者さんが対象で、医療費の自己負担額に上限が設定されます。
  3. 自立支援医療(育成医療・更生医療):18歳未満は育成医療、18歳以上は更生医療が適用され、医療費の自己負担額が軽減されます。
  4. 障害者医療費助成制度:自治体によって制度の内容は異なりますが、医療費の自己負担額が軽減されます。

以上

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