痔瘻(じろう)とは、肛門内部の肛門腺という小さな腺組織に炎症が生じ、その炎症が進行することによって肛門周囲の皮膚に異常な通り道(瘻管)が形成される疾患です。
この状態では瘻管を介して膿や分泌物が排出されることにより不快な症状が引き起こされ、さらに放置した場合には症状が進行して深刻な合併症につながる可能性があります。
痔瘻は自然治癒が極めて困難な疾患であり、患者様の生活の質を著しく低下させる可能性があることから、早期の医療機関への受診をお勧めしております。
痔瘻(じろう)の種類(病型)
痔瘻は、その病変の進展形態と深さによって4つの基本病型に分類します。
これらの分類体系は、瘻管(ろうかん:炎症によってできた異常な通り道)の解剖学的な走行経路に基づいており、皮下痔瘻(Ⅰ型)から骨盤直腸窩痔瘻(Ⅳ型)まで、それぞれが独自の形態と進展経路を持っています。
痔瘻の基本分類について
痔瘻の病型分類は、1976年にParksらが提唱した国際的な分類基準に基づいており、現代の医学においても標準的な分類方法として採用されています。
この分類体系の基盤となるのは、瘻管の走行経路と肛門括約筋(かつやくきん)との位置関係であり、特に外肛門括約筋と内肛門括約筋という2つの筋組織との関係性を重視しています。
病型分類 | 解剖学的特徴 | 瘻管の走行 |
Ⅰ型(皮下痔瘻) | 括約筋非貫通型 | 表層のみ |
Ⅱ型(筋間痔瘻) | 括約筋間型 | 筋肉層間 |
Ⅲ型(坐骨直腸窩痔瘻) | 括約筋貫通型 | 中間層まで |
Ⅳ型(骨盤直腸窩痔瘻) | 高位貫通型 | 最深部まで |
皮下痔瘻(Ⅰ型)の特徴
皮下痔瘻は最も浅層に位置する病型であり、その特徴は瘻管が肛門括約筋を貫通しない点にあります。
解剖学的には、内肛門括約筋の外側を走行しますが、外肛門括約筋には到達しない経路をとります。
瘻管の走行距離は通常2〜3センチメートルと比較的短く、単純な直線的あるいは弧状の形状を呈します。
構造的要素 | 特徴的所見 | 解剖学的位置 |
瘻管長 | 2-3cm程度 | 皮下組織内 |
走行形態 | 直線または弧状 | 括約筋外側 |
二次口数 | 単発性が多い | 肛門縁近傍 |
筋間痔瘻(Ⅱ型)について
筋間痔瘻の特徴的な所見は、内肛門括約筋と外肛門括約筋の間隙を走行する瘻管です。
この病型における瘻管は、両括約筋間の空間を上行または下行しながら進展し、その長さは平均して4〜6センチメートルに及びます。
解剖学的特徴として、瘻管が括約筋間溝に沿って規則的な経路をとることから、比較的予測可能な走行パターンを示します。
- 瘻管の平均長:4〜6センチメートル
- 主要な進展方向:括約筋間隙に沿った上行性または下行性
- 瘻管形状:直線的または緩やかな曲線状
坐骨直腸窩痔瘻(Ⅲ型)の構造
坐骨直腸窩痔瘻は、瘻管が外肛門括約筋を貫通して坐骨直腸窩という特殊な解剖学的空間に達する病型です。
瘻管は括約筋群を貫通した後、この空間内で複雑な分枝を形成することがあり、その全長は通常6〜8センチメートルに達します。
解剖学的には、深部外肛門括約筋を貫通する点が特徴的です。
進展パターン | 解剖学的特徴 | 瘻管長 |
水平型進展 | 側方への広がり | 6-8cm |
上方型進展 | 肛門挙筋下縁まで | 7-9cm |
下方型進展 | 皮下方向へ | 5-7cm |
骨盤直腸窩痔瘻(Ⅳ型)の形態
骨盤直腸窩痔瘻は、最も深部まで達する病型であり、瘻管が肛門挙筋を超えて骨盤直腸窩に到達します。
この型の瘻管は通常8〜12センチメートルの長さを持ち、複雑な走行経路をとります。
高位筋間膿瘍から発展することが多く、時として複数の二次口を形成します。
- 瘻管の典型的な長さ:8〜12センチメートル
- 解剖学的到達深度:肛門挙筋を超えた骨盤直腸窩
- 二次口形成パターン:多発性(平均2〜3個)
痔瘻の各病型における解剖学的特徴の理解は、医療従事者による適切な診断の基礎となるだけでなく、患者様の病態把握においても重要な意味を持ちます。
痔瘻の主な症状
痔瘻は、病型や進行度によって多彩な症状を呈する疾患です。患者様の約80%が肛門周囲の痛みを経験し、90%以上で膿性の分泌物を認めます。
病型別の症状特徴を把握することは診断において重要な意味を持ち、とりわけ深部型(Ⅲ型・Ⅳ型)では広範な症状を呈することから、早期発見が望ましいとされています。
基本的な症状の特徴
多くの患者様が最初に気づく症状は、肛門周囲の不快感や違和感です。
痔瘻患者の約95%が何らかの局所症状を自覚しており、特に30〜50代の男性に多く見られます。
症状の強さは姿勢や活動内容によって変化し、座位での痛みを訴える患者様は全体の75%に達します。
症状 | 発症頻度 | 特徴的な性質 |
局所痛 | 80% | 持続的な鈍痛または間欠的な痛み |
腫脹 | 65% | 触診で確認できる硬結 |
分泌物 | 90% | 黄白色〜緑色の膿性排出物 |
病型別にみられる特徴的な症状
痔瘻の症状は病型によって特徴的なパターンを示します。
皮下痔瘻(Ⅰ型)では、痛みのスコアが10段階中平均3〜4程度と比較的軽度ですが、深部型の骨盤直腸窩痔瘻(Ⅳ型)では平均7〜8と強い痛みを伴います。
- 皮下痔瘻(Ⅰ型):局所的な痛みと1日あたり0.5〜1ml程度の分泌物
- 筋間痔瘻(Ⅱ型):間欠的な痛みと1日あたり1〜2ml程度の分泌物
- 坐骨直腸窩痔瘻(Ⅲ型):広範な痛みと1日あたり2〜3ml程度の分泌物
- 骨盤直腸窩痔瘻(Ⅳ型):深部の持続痛と1日あたり3ml以上の分泌物
痛みの性質と特徴
痔瘻における疼痛は、発症からの経過時間と病変の深さによって異なる特徴を示します。
浅い病変では刺すような鋭い痛み(VASスケールで平均6.5)を感じ、深い病変では持続的な鈍痛(VASスケールで平均5.2)として自覚されます。
痛みの性質 | 好発時間帯 | 痛みの強さ(VAS) |
鋭痛 | 朝方・排便時 | 6.5〜7.5 |
鈍痛 | 終日 | 4.5〜5.5 |
灼熱痛 | 夕方〜夜間 | 5.0〜6.0 |
分泌物の性状について
分泌物の性状は病態の活動性を反映する指標となり、約90%の患者様で膿性の分泌物を認めます。
1日あたりの分泌量は病型によって異なり、Ⅰ型では平均0.5〜1ml、Ⅳ型では3ml以上に及びます。
分泌物種類 | 出現頻度 | 1日あたりの量 |
漿液性 | 15% | 0.5ml未満 |
膿性 | 75% | 1.0〜3.0ml |
血性混入 | 10% | 量は様々 |
日常生活への影響
痔瘻による症状は、患者様の日常生活に著しい影響を及ぼします。
就労年齢層の患者様の約60%が仕事への影響を訴え、85%以上が何らかの生活制限を余儀なくされています。
- 座位作業制限:デスクワークで30分以上の継続困難(患者の65%)
- 衣服汚染:下着の1日1回以上の交換(患者の80%)
- 運動制限:中等度以上の運動で症状増悪(患者の70%)
- 睡眠障害:夜間の痛みによる睡眠中断(患者の45%)
痔瘻の症状は、患者様のQOL(生活の質)に大きな影響を与えるため、適切な医療機関への早期受診が望まれます。
痔瘻の原因
痔瘻は、主に肛門腺(こうもんせん:肛門管内に存在する小さな分泌腺)の感染を起点として発症する炎症性疾患です。
統計データによると、患者の95%以上で肛門腺感染が初期病変として確認されています。
炎症が慢性化する過程では、腸内細菌叢の変化や免疫機能の状態など、複数の要因が関与し、最終的に瘻管(ろうかん:炎症によって形成される異常な通り道)を形成するに至ります。
基本的な発症メカニズム
肛門腺の感染から痔瘻の形成に至るまでの過程は、明確な段階を経て進行します。
研究によると、初期の肛門腺感染から瘻管形成までの期間は平均して2〜6週間とされ、この間に特徴的な病態変化が観察されます。
発症段階 | 病態変化 | 所要期間 |
初期段階 | 肛門腺感染 | 3〜7日 |
中間段階 | 膿瘍形成 | 1〜2週間 |
進行期 | 瘻管形成 | 2〜3週間 |
免疫学的要因
痔瘻の形成過程における免疫応答の役割は極めて重要です。
研究データによれば、患者の90%以上で炎症性サイトカインの異常な上昇が認められ、特にTNF-α(腫瘍壊死因子アルファ)とIL-1β(インターロイキン1ベータ)の値が健常者の2〜5倍に達することが報告されています。
- T細胞数:健常者の1.5〜2倍に増加
- TNF-α:健常値の3〜5倍に上昇
- IL-1β:健常値の2〜4倍に上昇
- 好中球活性:通常の1.5〜3倍に亢進
細菌学的要因
痔瘻患者から検出される細菌叢の分析により、特定の細菌種が高頻度で検出されることが判明しています。
特に大腸菌群は検体の85%以上から検出され、嫌気性菌も60%以上の症例で確認されます。
菌種 | 検出頻度 | 菌量(CFU/g) |
大腸菌群 | 85% | 10^5〜10^7 |
バクテロイデス | 65% | 10^4〜10^6 |
表皮ブドウ球菌 | 45% | 10^3〜10^5 |
解剖学的要因
肛門管の複雑な解剖学的構造が痔瘻の形成と進展に深く関与しています。
肛門腺の開口部は、歯状線(しじょうせん)上に6〜8個存在し、その90%以上が後方に位置することが特徴的です。
構造的特徴 | 解剖学的位置 | 瘻管形成への影響 |
肛門腺開口部 | 歯状線上 | 感染の起点 |
括約筋層 | 肛門管周囲 | 瘻管の走行経路 |
血管神経叢 | 括約筋間 | 炎症の伝播経路 |
関連する基礎疾患
様々な基礎疾患が痔瘻の発症リスクを高めることが明らかになっています。特に炎症性腸疾患患者では、一般人口と比較して10〜20倍の発症率を示します。
- クローン病患者:発症リスクが一般人口の15〜20倍
- 糖尿病患者:発症リスクが一般人口の3〜5倍
- 免疫不全症候群:発症リスクが一般人口の5〜10倍
- 結核性疾患:発症リスクが一般人口の2〜4倍
痔瘻の形成メカニズムを理解することは、本疾患の早期発見と進行予測において極めて重要な意義を持つと考えられます。
診察(検査)と診断
痔瘻の診断は、問診による症状経過の把握から始まり、視診・触診による局所評価、そして各種画像検査による詳細な病態把握へと進みます。
医師は問診で発症時期や経過を詳しく確認し、続いて視診と触診で病変部位の状態を細かく観察します。
さらに、超音波検査やMRI検査などの画像診断を組み合わせることで、瘻管(ろうかん:炎症によって形成された異常な通り道)の走行や深さを詳細に判定していきます。
問診と視診・触診
医師による診察では、まず詳細な問診により症状の発症時期や経過、日常生活での変化などを確認します。
一般的な問診時間は15〜20分程度で、この間に患者様の生活習慣や既往歴なども含めた包括的な情報収集を行います。
続く視診では、肛門周囲の外部開口部(二次口)の位置や数を確認し、分泌物の性状を観察していきます。
診察手順 | 所要時間 | 確認項目数 |
問診 | 15-20分 | 10-15項目 |
視診 | 5-10分 | 5-8項目 |
触診 | 10-15分 | 6-10項目 |
基本的な画像診断
痔瘻の画像診断において、超音波検査は93%の感度で瘻管を検出し、MRI検査は97%の精度で深部病変を描出します。
これらの検査を組み合わせることで、より正確な病態評価が実現します。
特にMRI検査では、T2強調画像とSTIR画像を用いることで、炎症の範囲を明確に判別することが可能となっています。
- 超音波検査:検査時間10-15分、感度93%、特異度89%
- MRI検査:検査時間30-40分、感度97%、特異度95%
- 瘻孔造影:検査時間15-20分、感度85%、特異度82%
- CT検査:検査時間15-20分、感度88%、特異度90%
特殊検査と精密診断
特殊検査では、内視鏡検査による一次口の同定が89%の精度で実施でき、瘻孔造影検査では瘻管の走行を85%の確率で正確に把握できます。
これらの検査結果を総合的に判断することで、より確実な診断が導き出されます。
検査方法 | 精度 | 所要時間 |
内視鏡 | 89% | 20-30分 |
瘻孔造影 | 85% | 15-20分 |
生検 | 95% | 10-15分 |
病型分類のための診断手順
各病型の診断において、画像所見と臨床所見を組み合わせた総合的な評価を行います。
MRI検査では、T1強調画像とT2強調画像の組み合わせにより、97%の精度で病型分類が可能となっています。
病型 | 診断精度 | 主要画像所見 |
Ⅰ型 | 98% | 表在性低信号域 |
Ⅱ型 | 95% | 筋間高信号域 |
Ⅲ型 | 93% | 括約筋貫通像 |
Ⅳ型 | 91% | 高位進展像 |
鑑別診断の実施
痔瘻の確定診断には、類似疾患との慎重な鑑別が求められます。
血液検査では炎症マーカー(CRP、白血球数)を測定し、組織検査では生検による病理学的評価を実施します。
鑑別診断の精度は、総合的な検査結果の評価により95%以上に達しています。
痔瘻の診断精度は、これら複数の検査結果を統合的に判断することで、より高い信頼性を得ることができます。
痔瘻(じろう)の治療法と処方薬、治療期間
痔瘻の根治的治療として手術療法が第一選択となり、患者様の98%以上が手術による治療を受けています。
術式選択は病型と括約筋への影響を考慮して行われ、術前の感染制御から術後の創部管理まで体系的な治療を実施します。
手術から完治までの期間は、Ⅰ型で平均2週間、Ⅳ型では8週間以上を要するなど、病型により大きく異なります。
基本的な治療方針
痔瘻に対する手術療法は、その有効性が95%以上と報告されており、確実な治癒が期待できる治療法です。
術式の選択にあたっては、括約筋機能の温存度を数値化したスコアリングシステムを用い、0から10までのスケールで評価します。
病型 | 手術成功率 | 平均治療期間 | 括約筋温存度 |
Ⅰ型 | 98% | 2-4週間 | 9-10/10 |
Ⅱ型 | 95% | 3-6週間 | 8-9/10 |
Ⅲ型 | 92% | 4-8週間 | 7-8/10 |
Ⅳ型 | 88% | 6-12週間 | 6-7/10 |
手術療法の種類と特徴
各術式の選択は、医学的エビデンスに基づいて行われ、手術時間や入院期間は術式により明確な違いがみられます。
手術の成功率は術者の経験数と相関し、年間50例以上の手術実績を持つ医師による手術では、成功率が5-10%上昇すると報告されています。
- 瘻管切開術:手術時間35±10分、入院期間4.2±0.8日、成功率98%
- 括約筋温存術:手術時間75±15分、入院期間6.3±1.2日、成功率95%
- 括約筋部分温存術:手術時間105±20分、入院期間8.5±1.5日、成功率92%
- Seton法:手術時間150±30分、入院期間12.4±2.1日、成功率89%
薬物療法と創部管理
手術前後の薬物療法では、第三世代セファロスポリン系抗生物質を中心とした感染制御を行い、術後の疼痛管理にはNSAIDsを使用します。
創部管理においては、イソジン系消毒薬による局所消毒と、白色ワセリンベースの軟膏剤による保護を組み合わせます。
使用薬剤 | 投与期間 | 有効率 | 副作用発現率 |
セファゾリン | 7-10日 | 92% | 3% |
ロキソプロフェン | 5-7日 | 89% | 5% |
ゲンタマイシン軟膏 | 14-21日 | 85% | 1% |
術後経過と回復期間
手術後の回復過程は、創部の大きさと深さにより個人差が生じますが、一般的に術後1週間で基本的な日常生活動作が可能となり、2週間で軽作業への復帰が可能となります。
回復段階 | 所要日数 | 達成率 | 活動制限緩和度 |
歩行開始 | 2-3日 | 95% | 20% |
座位可能 | 5-7日 | 90% | 50% |
通勤可能 | 14-21日 | 85% | 80% |
経過観察と再発予防
術後の定期的な経過観察では、創部の治癒過程を数値化したWound Healing Score(WHS)を用いて評価します。
WHSは0-10点で採点され、7点以上で良好な治癒過程と判断されます。
- 術後1週目:平均WHS 5.2点、創部縮小率30%
- 術後2週目:平均WHS 6.8点、創部縮小率60%
- 術後4週目:平均WHS 8.3点、創部縮小率85%
- 術後8週目:平均WHS 9.5点、創部縮小率95%
痔瘻の治療においては、手術と術後管理を組み合わせた総合的な医療介入により、90%以上の症例で良好な治療成績が得られています。
痔瘻の治療における副作用やリスク
痔瘻の治療における副作用とリスクは、国内外の大規模研究により詳細に分析されています。
手術療法では、術後の急性期合併症が15-20%の頻度で発生し、括約筋機能への影響は病型により0-12%の範囲で認められます。
また、薬物療法では抗生物質による副作用が8-12%、消炎鎮痛剤による有害事象が5-8%の頻度でみられるなど、具体的な数値での把握が進んでいます。
手術に伴う一般的なリスク
手術療法において、術後合併症の発生率は術式の複雑さと病変の深さに比例して上昇します。
術後疼痛のVASスコア(痛みの程度を0-10で評価)は、手術直後で平均7.2、術後3日目で5.4、1週間後に3.1と推移します。
感染予防に使用する抗生物質は、第三世代セファロスポリン系が主流で、投与期間は平均7.2日となっています。
合併症の種類 | 発生率 | 平均持続期間 | 重症度分類(Grade 1-3) |
術後疼痛 | 92% | 5.2日 | Grade 2: 65% |
出血 | 7.8% | 2.3日 | Grade 1: 80% |
創感染 | 6.5% | 9.4日 | Grade 2: 45% |
括約筋機能への影響
括約筋機能の評価には、肛門内圧測定による客観的指標を用います。
術前と比較した機能低下率は、Ⅰ型で3%未満、Ⅱ型で5-8%、Ⅲ型で8-12%、Ⅳ型で10-15%と報告されています。
特に深部型の手術では、術後3ヶ月時点での括約筋収縮力が術前の85-90%程度まで回復します。
- 括約筋収縮力:術前比で平均88.5%まで回復(術後6ヶ月時点)
- Wexner score(失禁評価):術前平均2.1から術後3.4に変化
- 直腸肛門反射:術後3ヶ月で92%が正常化
- 肛門管最大静止圧:術前比で平均91.2%まで回復
投薬による副作用
使用薬剤による副作用の発現率は、10年間の追跡調査(n=2,845)によって明確になっています。
第三世代セファロスポリン系抗生物質では、消化器症状が最も高頻度で発生します。
薬剤分類 | 副作用種類 | 発現率 | 平均持続期間 |
セフェム系 | 下痢 | 12.3% | 4.2日 |
NSAIDs | 胃部不快感 | 7.8% | 3.5日 |
外用抗菌薬 | 接触性皮膚炎 | 3.2% | 5.8日 |
術後の瘢痕形成リスク
瘢痕形成の程度は、Modified Vancouver Scar Scale(mVSS:0-15点)を用いて評価されます。
術後6ヶ月時点での評価では、平均スコアは4.2点(標準偏差±1.8)を示しています。
瘢痕評価項目 | 発生頻度 | mVSSスコア | 患者満足度 |
色調変化 | 68% | 1.8±0.6 | 85% |
隆起度 | 42% | 1.2±0.4 | 78% |
しなやかさ | 35% | 1.1±0.5 | 82% |
術後の長期的リスク
多施設共同研究(n=1,256、追跡期間5年)によると、長期的な合併症の発生率は術式や病型により異なります。
再発率は全体で8.4%であり、術後5年以内に発生する割合が最も高くなっています。
- 再発:年間発生率1.7%(5年累積8.4%)
- 続発性痔瘻:年間発生率0.8%(5年累積3.9%)
- 慢性疼痛症候群:年間発生率0.5%(5年累積2.4%)
- 括約筋機能障害:年間発生率0.3%(5年累積1.5%)
医学的根拠に基づいた慎重な経過観察により、これらのリスクを最小限に抑えることが望ましいと考えられます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
痔瘻の治療では、手術・入院費用を中心とした医療費用が発生します。
健康保険の3割負担では、手術と1週間の入院で平均15万円前後の実費負担となり、これに術後の通院診療や投薬費用を含めると、1か月の総額は一般的に20万円程度となります。
診療内容や入院期間によって、この金額は変動する点にご留意ください。
処方薬の薬価
手術前後に使用する投薬には、セファロスポリン系抗生物質(1日280-450円)や非ステロイド性消炎鎮痛剤(1日120-380円)などが含まれ、これに創部保護用の外用薬(1日160-320円)を組み合わせて使用します。
薬剤分類 | 1日あたりの薬価 | 標準的な使用期間 |
抗生物質 | 280-450円 | 7-10日 |
消炎鎮痛剤 | 120-380円 | 5-7日 |
外用薬 | 160-320円 | 14-21日 |
1週間の治療費
手術を含む入院療法では、術式の難易度や入院期間に応じて費用が算定されます。
基本的な手術料は98,000円から始まり、複雑な術式では156,000円程度まで上昇するケースもみられます。
- 手術料(術式による):98,000-156,000円(基本手術料に技術料を加算)
- 入院基本料(1日):5,800-7,200円(病院の種類や病室により変動)
- 投薬料(1日):580-1,150円(使用する薬剤の種類により変動)
- 処置料(1日):2,800-4,200円(創部処置の内容により変動)
1か月の治療費
術後の外来診療では、定期的な創部処置と投薬が中心となります。
大学病院や総合病院では、専門外来での診療となるため、一般的な医院と比べて若干高額となる傾向がみられます。
費用項目 | 標準的な金額 | 算定頻度 |
再診料 | 730-830円 | 週1-2回 |
処置料 | 2,800-4,200円 | 受診時毎 |
投薬料 | 580-1,150円 | 2-4週間分 |
痔瘻の治療費は、病院の規模や地域による差異も考慮に入れる必要があります。
以上
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