食道癌 – 消化器の疾患

食道癌(Esophageal cancer)とは、食道にできる悪性腫瘍です。

初期には自覚症状がないことが多く、進行するにつれて、飲食時の胸の違和感、飲み込みづらさ、体重減少、痛み、咳、声のかすれなどの症状が現れます。

明確な原因はわかっていませんが、喫煙、飲酒、食生活などがリスク因子として挙げられます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

食道癌の種類(病型)

食道癌は、主に扁平上皮癌、腺癌に分類されます。

癌の種類発生部位主なリスク因子
扁平上皮癌扁平上皮細胞喫煙、過度の飲酒
腺癌腺細胒胃食道逆流症、肥満

扁平上皮癌(最も一般的な食道癌)

扁平上皮癌は食道癌の中で最も頻繁に見られる型で、食道の内側を覆う扁平上皮細胞から発生します。

日本の食道癌患者さんの約90%はこのタイプに該当し、喫煙や過度の飲酒が主なリスク因子となります。

腺癌(増加傾向にある食道癌)

腺癌は、食道の腺細胞(粘液などを分泌する細胞)から発生する癌です。近年、欧米を中心に増加傾向にあり、日本でも徐々に症例が増えています。

胃食道逆流症(GERD)や肥満が主な原因であると考えられています。

バレット食道癌

バレット食道とは、食道下部の細胞が腸の細胞に類似した形態に変化する病気です。

この変化した粘膜から癌が発生すると、バレット食道癌となります。

欧米では食道癌の中で最も多い型ですが、日本ではまだ比較的珍しいです。しかし、食生活の欧米化に伴い今後増加すると考えられています。

その他の稀な食道癌

扁平上皮癌や腺癌以外にも、まれな食道癌が存在します(全食道癌の1〜2%程度)。

癌の種類特徴発生頻度
小細胞癌神経内分泌細胞由来
腺扁平上皮癌扁平上皮癌と腺癌の混合型
未分化癌細胞の分化が極めて未熟
肉腫間葉系細胞由来極めて稀

食道癌の主な症状

食道癌は初期段階では症状が乏しく、病状の進行に伴い嚥下困難(飲み込みにくさ)や胸部の痛みなどが顕著になっていきます。

初期症状

食道癌の初期段階では症状がほとんどありませんが、一部の患者さんにおいて、以下のような軽微な症状が出現する場合もあります。

初期症状特徴
違和感喉や胸の奥に何かが引っかかったような感覚
軽度の痛み食べ物を飲み込む際に感じる一時的な不快感

進行期の主要症状

癌が進行すると、嚥下困難や胸の痛みなど、明確な症状が現れてきます。

最初のうちは固形物を飲み込むときに違和感を感じていたものであっても、病状が進行すると液体でさえも飲み込みにくくなっていきます。

また、胸部や背中の痛みも進行した食道癌で見られる症状です。

進行期症状詳細
嚥下困難食事や飲み物を飲み込む際の困難さ
胸痛・背部痛持続的な痛みや、飲み込む動作で悪化する痛み

全身症状

  • 急激な体重の減少
  • 長期間続く全身のだるさ
  • 食欲が落ちる
  • 原因不明の発熱

食事摂取量の低下や代謝の変化により、体重の減少がみられます。

1~2ヶ月の間に5%以上体重が減少している場合は、医療機関での詳しい検査を受けるようにしてください。

また、進行した食道癌では、全身のだるさ(倦怠感)もよく見られる症状の一つです。

見逃しやすい症状

食道癌の症状の中には、他の病気と間違えやすいものもあります。

見逃しやすい症状考えられる原因
長引く咳腫瘍による気管への圧迫
声のかすれ腫瘍による反回神経への圧迫

長引く咳は、気管支炎や喘息(ぜんそく)と混同されやすい症状です。

また、声がかすれる「嗄声」も、進行した食道癌で見られることがある症状の一つです。

食道癌の原因

食道癌の原因は明確にわかっていないものの、長年の喫煙や過度の飲酒、食生活など、日々の生活習慣が深く関係していると考えられています。

喫煙・飲酒

喫煙や長期間にわたる過度の飲酒は、食道癌の発症リスクを大幅に増大させます。

リスク要因リスク増加率主な影響
喫煙約2-3倍DNA損傷
過度の飲酒約3-5倍粘膜損傷

食生活の影響

  • 高温の飲食物を頻繁に摂取する習慣がある
  • 野菜や果物の摂取が不足している
  • 栄養バランスが崩れている(ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素が十分に摂取できていない)

職業環境

発がん性物質(アスベストや多環芳香族炭化水素など)を日常的に扱う職業に従事する人や、大気汚染が深刻な地域に居住する人は、食道癌のリスクが高くなる傾向があります。

慢性的な食道疾患・炎症

バレット食道や逆流性食道炎などの慢性的な食道疾患がある方は、長期間にわたって食道粘膜に炎症や損傷を起こし続けている状態のため、がん化のリスクが上昇します。

診察(検査)と診断

食道癌の診察では、内視鏡検査やCT検査などの画像検査を行います。組織を採取して病理検査を実施し、がんの有無や種類、進行度などを診断します。

内視鏡検査

内視鏡検査では、以下の点に注目して観察を行います。

  • 粘膜の色調変化
  • 表面の凹凸
  • 血管パターンの異常
  • 潰瘍や隆起性病変の有無

必要に応じ、狭帯域光観察(NBI)やヨード染色法などの特殊観察技術を併用し、より詳細な粘膜評価を行います。

これにより、通常の内視鏡では見逃してしまうような微細な変化も捉えることができるようになります。

画像診断

画像診断では、食道癌の進展度や転移の有無を調べていきます。

検査法主な目的
CT検査リンパ節転移や遠隔転移の評価
PET-CT全身の転移巣の検索
超音波内視鏡腫瘍の深達度評価
MRI検査周囲臓器への浸潤評価

生検による確定診断

食道癌の確定診断には、内視鏡下での生検を行います。生検で得られた組織を病理学的に検査し、悪性度や組織型を判定します。

組織型特徴発生頻度
扁平上皮癌食道癌の大部分を占める約90%
腺癌食道胃接合部に多い約5-10%
その他の稀な型小細胞癌、未分化癌など約1-5%

病期分類

TNM分類に基づいた食道癌の病期分類は、治療方針の選択や予後予測の指標となります。

T因子定義特徴
Tis上皮内癌粘膜内にとどまる初期の癌
T1粘膜下層までの浸潤早期癌の段階
T2固有筋層への浸潤進行癌の初期段階
T3外膜への浸潤局所進行癌
T4隣接臓器への浸潤高度進行癌

食道癌の治療法と処方薬、治療期間

食道癌の治療法には、手術、放射線療法、化学療法があり、これらを組み合わせた集学的治療を行います。

治療期間は、早期がんで数か月、進行がんで半年以上が目安となります。

治療法の選択

早期の食道癌では、内視鏡を用いてがん組織を切除する、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を検討します。

一方、進行した食道がんの場合は、より広範囲な手術が必要です。食道を切除し、胃や腸の一部を使って再建する手術を行うことを検討していきます。

放射線療法と化学療法

手術が難しい場合においては、放射線療法と化学療法を組み合わせた治療を行うこともあります。

放射線療法は、がん細胞に放射線を照射して破壊する方法です。一方、化学療法は抗がん剤を用いて、がん細胞の増殖を抑える治療法です。

治療法特徴主な副作用
放射線療法がん細胞を直接破壊皮膚炎、食道炎
化学療法がん細胞の増殖を抑制吐き気、脱毛

食道がんの治療に使用する主な抗がん剤

  • シスプラチン(白金系抗がん剤)
  • 5-フルオロウラシル(5-FU)(代謝拮抗剤)
  • ドセタキセル(タキサン系抗がん剤)
  • パクリタキセル(タキサン系抗がん剤)

シスプラチンと5-FUの併用療法は、食道がんの標準的な治療法の一つとして広く使用されています。

最近では、分子標的薬(特定の分子を標的にして作用する薬)や免疫チェックポイント阻害薬(免疫系を活性化させてがんを攻撃する薬)といった新しいタイプの薬剤も導入されており、治療の選択肢が広がっています。

治療期間

早期の食道がんでESDを行う場合、入院期間は1週間程度で済むことが多いですが、進行がんで手術や化学放射線療法を行う場合は、数か月から半年以上の治療期間が必要です。

治療法一般的な治療期間経過観察
ESD1週間程度3-6ヶ月ごとの内視鏡検査
手術2〜3週間の入院3-6ヶ月ごとのCT検査
化学放射線療法2〜3か月1-3ヶ月ごとの画像検査

治療終了後も、再発や転移のリスクがあるため、定期的な検査を行います。

食道癌の治療における副作用やリスク

食道癌の治療法(手術、放射線療法、化学療法など)には、それぞれ副作用やリスクが伴います。

治療に伴う一般的な副作用

手術後は、食事の摂取に困難を感じる方が多くいらっしゃいます。手術による食道の構造変化や、一時的な消化機能の低下が原因となっていることが多いです。

また、放射線療法や化学療法では、吐き気や倦怠感、脱毛といった副作用が現れることがあります。症状は一時的なものが多いですが、日常生活に影響を与える場合があります。

治療法主な副作用
手術食事摂取困難、術後感染、嚥下障害
放射線療法皮膚炎、食道炎、嚥下痛
化学療法吐き気、倦怠感、脱毛、味覚障害

手術に関連するリスク

食道癌の手術は、体への負担が大きい治療法です。

手術中や術後には出血、感染、縫合不全などのリスクがあります。

特に縫合不全は重篤な合併症で、食道と胃をつなぎ合わせた部分がうまくくっつかず、そこから内容物が漏れ出してしまう状態を指します。

放射線療法のリスク

放射線療法は、健康な組織にもダメージを与えてしまうことがあります。

また、長期的には二次がん(放射線療法が原因で新たに発生するがん)のリスクがあり、年齢や既往歴によっては注意が必要です。

影響を受ける可能性のある臓器起こりうる合併症
放射線性肺炎、肺線維症
心臓心膜炎、心筋障害、冠動脈疾患
骨髄血球減少、貧血
皮膚放射線皮膚炎、色素沈着

化学療法に伴う副作用

  • 骨髄抑制:白血球や血小板の減少により、感染症や出血のリスクが上昇する
  • 消化器症状:吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振などが起こる
  • 末梢神経障害:手足のしびれや痛み
  • 腎機能障害:尿量が減少したり、むくみ
  • 脱毛:頭髪だけでなく、体毛も抜け落ちることがあります

治療後の長期的な影響

食道の一部を切除したり、再建したりすることで、食事の通過や消化吸収に影響が出ることがあります。

また、放射線療法や化学療法の影響で、慢性的な疲労感や体力低下が治療終了後も長期間続くことがあります。

長期的な影響対応策
栄養不良栄養指導、補助食品の利用、経腸栄養法の検討
慢性疲労運動療法、生活リズムの調整、リハビリテーション
嚥下障害嚥下リハビリテーション、食事形態の工夫

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

食道癌の治療費用は、治療方法や進行度によって大きく異なります。

治療方法による費用の違い

治療法概算費用
手術200-350万円
放射線療法100-180万円
化学療法120-250万円

複数の治療法を組み合わせることもあるため、上記費用はあくまで目安となります。

入院費用

手術を行う際の入院期間は、一般的に2〜4週間程度です。入院費用は1日あたり4〜6万円程度が目安です。

合併症が発生した場合は入院期間が延長し、費用が増加します。

追加的な費用

項目概算費用
CT検査2〜4万円
内視鏡検査1.5〜3万円
栄養指導8,000〜1.5万円
PET検査8〜12万円

以上

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