メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎) – 消化器の疾患

メネトリエ病(Ménétrier disease)とは、胃の粘膜が異常に肥厚する珍しい消化器系の疾患です。

胃壁が正常の3倍から10倍にまで肥大化し、持続的な腹痛や吐き気、嘔吐、食欲不振などの症状が起こります。

さらに進行すると、低タンパク血症や貧血といった全身性の問題が起こることもあります。

※巨大肥厚性胃炎とも呼ばれます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の主な症状

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)では、胃の粘膜が異常に肥厚することで、上腹部痛や嘔吐、体重減少などの症状が現れます。

上腹部の不快感・痛み

メネトリエ病で最も多くみられる症状は、上腹部の不快感や痛みです。

食事の前後で症状が増強する場合が多く、食事を楽しむことができなくなります。

その他の消化器症状

メネトリエ病では、上腹部痛以外にもさまざまな消化器症状が現れます。

嘔気(吐き気)や嘔吐、食欲不振は多くの患者さんに見られ、結果として体重が減少していきます。

症状特徴
嘔気・嘔吐食後に悪化する
食欲不振体重減少の原因となる
腹部膨満感少量の食事でも発生する
下痢間欠的に起こる

栄養障害・体重減少

以下のような要因が重なり、栄養障害と体重減少が現れます。

  • 食欲不振による摂取カロリーの減少
  • 胃粘膜からのタンパク質漏出
  • 消化吸収機能の低下
  • 慢性的な炎症による代謝亢進

長期にわたる栄養障害は全身状態に悪影響を及ぼすため、早期発見が大切となります。

貧血・浮腫(むくみ)

メネトリエ病では胃粘膜からのタンパク質漏出が起こるため、血清アルブミン値(血液中のタンパク質の一種)が低下し、貧血や浮腫といった症状が現れます。

症状原因影響
貧血鉄分やビタミンB12の吸収障害疲労感、めまい
浮腫血清アルブミン値の低下足のむくみ、息切れ
低タンパク血症タンパク質の漏出免疫力低下
電解質異常消化吸収障害筋力低下、不整脈

非特異的な全身症状

上記の症状のほか、慢性的な栄養障害や炎症反応の結果として、倦怠感や易疲労感、微熱などの非特異的な症状が持続することがあります。

全身症状特徴
倦怠感日常的に感じる疲れやすさ
微熱37度前後の軽度な発熱
筋力低下長期的な栄養不良による
皮膚の乾燥ビタミン欠乏に関連

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の原因

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)は原因不明の疾患ですが、主に胃粘膜の過剰な成長と分泌を引き起こす上皮成長因子(EGF)の過剰産生が原因だと考えられています。

成人ではピロリ菌感染、小児ではサイトメガロウイルス感染が関連している可能性が指摘されています。

遺伝子変異の影響

メネトリエ病の発症で特に注目されているのは、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の異常です。

この遺伝子に変異が生じると、EGFRが過剰に活性化され、胃粘膜細胞の増殖が促進されます。

その結果、胃壁の肥厚や粘液の過剰分泌が起こり、メネトリエ病特有の症状が現れるのではないかと考えられています。

感染症との関連性

以下の表は、主なメネトリエ病の関連感染症とその関連性の強さを示しています。

感染症関連性
ヘリコバクター・ピロリ強い
サイトメガロウイルス中程度
エプスタイン・バーウイルス弱い

特にヘリコバクター・ピロリ菌の感染は胃粘膜の炎症を引き起こし、長期的には胃の構造変化をもたらすため、メネトリエ病の発症リスクを高める重要な要因と考えられています。

自己免疫反応の関与

一部の研究では、メネトリエ病の発症に自己免疫反応が関与している可能性も指摘されています。

関連する自己抗体とその標的

自己抗体標的
抗胃壁抗体胃粘膜細胞
抗EGF抗体上皮成長因子

年齢と性別による影響

メネトリエ病は中年以降の男性に多く見られる傾向があります。

要因影響
年齢中年以降でリスク増加
性別男性に多い傾向

女性ホルモンが胃粘膜の保護作用を持つという仮説も存在し、これが男性に多い理由の一つとして考えられています。

診察(検査)と診断

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の診断では、胃内視鏡検査や生検による組織学的検査、血液検査による低タンパク血症の確認などを実施します。

画像診断

画像診断では、メネトリエ病の特徴である胃の粘膜が厚くなっていることを確認します。

  • 上部消化管造影(胃のレントゲン検査)
  • 内視鏡検査
  • CT検査
  • 超音波検査

生検と病理学的診断

確実な診断をするためには、内視鏡を使って胃の粘膜の一部を採取する検査(生検)が必要です。

病理学的検査で確認する所見

  • 胃底腺が過剰に増えている
  • 粘液を作る細胞が増えている
  • 壁細胞と主細胞が減っている
  • 腺管が袋状に広がっている

鑑別診断

メネトリエ病は、他の胃の病気と似た症状や所見を示すことがあるため、他の病気と区別する必要があります。

区別すべき病気主な特徴
胃がん悪性の腫瘍がある
リンパ腫(リンパ球のがん)リンパ球という白血球が異常に増えている
胃ポリポーシスたくさんのポリープがある
好酸球性胃炎好酸球という白血球が異常に増えている

血液検査と生化学的マーカー

血液検査や生化学的マーカーは、診断を補助する役割のほか、病気の重さを評価するためにも役立ちます。

検査項目メネトリエ病での特徴
血清アルブミン値低下していることが多い
貧血の検査貧血が見られることがある
血清ガストリン値上昇していることがある

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療法と処方薬、治療期間

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療は、症状軽減と合併症予防を目指して行います。

主に薬物療法と外科的介入を組み合わせて実施し、治療期間は状態に応じて数週間から数か月、場合によっては数年に及ぶこともあります。

治療法適応期間
薬物療法軽度〜中等度の症状数週間〜数か月
外科的治療重度の症状や合併症手術後3〜6か月の回復期間
栄養管理全ての患者さん継続的

薬物療法の基本方針

メネトリエ病の薬物療法では、胃酸分泌を抑え、胃の粘膜を保護することが重要となります。

プロトンポンプ阻害薬(PPI)や H2受容体拮抗薬(胃酸の分泌を抑える薬)を用いて胃酸分泌を抑制し、胃粘膜の炎症軽減と症状を改善します。

また、制酸薬や粘膜保護剤を併せて使用することで、胃粘膜の保護効果をさらに高めていきます。

通常は4〜8週間継続して投与し、症状の改善具合を確認しながら投与期間を調整します。

生物学的製剤

近年、メネトリエ病の治療において、生物学的製剤(体内の特定の物質の働きを抑える薬)の効果が注目されています。

特に上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬であるセツキシマブの使用が、一部の患者さんで良好な結果を示しています。

セツキシマブは通常6〜12週間投与し、症状の改善度合いを評価します。

薬剤名投与期間主な効果
PPI4〜8週間胃酸分泌抑制
H2受容体拮抗薬4〜8週間胃酸分泌抑制
セツキシマブ6〜12週間細胞増殖抑制

外科的治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重度の合併症がある場合には、外科的治療を検討します。

胃全摘術や胃亜全摘術が主な選択肢となりますが、状態や病変の範囲に応じて術式を決定します。

外科的治療後は2〜4週間の入院期間が必要となり、その後3〜6か月の回復期間が必要となります。

栄養管理・経過観察

治療効果を高めるため、以下のような栄養指導を行います。

  • 低タンパク血症の改善のための高タンパク食
  • 消化吸収を考慮した少量頻回食(一度に少量の食事を頻繁に取る方法)
  • 刺激物や過度の脂肪摂取を避けた食事

栄養指導を行いながら定期的な血液検査や内視鏡検査を実施し、病状の経過を観察していきます。

経過観察の頻度は治療開始初期は2〜4週間ごと、症状が安定してからは1〜3か月ごとが一般的です。

観察項目頻度目的
血液検査2〜4週間ごと栄養状態の評価
内視鏡検査3〜6か月ごと胃粘膜の状態確認
症状評価1〜2週間ごと治療効果の判定

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療における副作用やリスク

メネトリエ病(巨大肥厚性胃炎)の治療において、薬物療法では胃酸分泌抑制薬による下痢や便秘、外科手術では出血や感染症などの合併症が起こる可能性があります。

薬物療法に伴うリスク

薬物療法はメネトリエ病の症状緩和に効果的ですが、抗セクレチン薬(胃酸の分泌を抑える薬)や制酸薬の長期使用により、消化器系、神経系、皮膚に関する副作用が生じることがあります。

副作用の種類主な症状対処法
消化器系下痢、便秘食事の調整、整腸剤の使用
神経系頭痛、めまい休息、水分補給
皮膚発疹、かゆみ保湿剤の使用、抗ヒスタミン薬の投与

外科的治療のリスク

手術には出血、感染、麻酔関連の合併症、術後の消化吸収障害などのリスクが伴います。

手術の種類主なリスク術後の注意点
胃全摘術ダンピング症候群、栄養障害少量頻回食、ビタミンB12補充
胃部分切除術吻合部潰瘍、胆汁逆流制酸薬の服用、食事指導

栄養療法に関連するリスク

経腸栄養では、チューブ挿入時の合併症や誤嚥性肺炎(食べ物や唾液が誤って気管に入ることで起こる肺炎)に注意が必要です。

また、静脈栄養ではカテーテル関連感染症や電解質異常(体内のミネラルバランスの乱れ)がリスクとして挙げられます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

メネトリエ病の治療費用は、症状の程度や選択する治療法によって大きく異なります。保険適用される治療もありますが、高額な医療費がかかることがあります。

メネトリエ病の治療費用
  • 検査費用(血液検査、内視鏡検査など)
  • 薬剤費
  • 入院費用(必要な場合)
  • 手術費用(必要な場合)

基本的な治療費用

薬物療法の場合、胃酸分泌抑制剤や抗炎症薬などの薬剤費用が主な費用となります。手術療法の場合は入院費用や手術費用など、医療費が高額になります。

治療法概算費用(3か月)
薬物療法8万円〜20万円
手術療法80万円〜200万円

長期的な治療費用

メネトリエ病は慢性疾患であるため、長期的な治療が必要です。継続的な薬物療養や、定期的な検査費用がかかるほか、合併症の予防や管理にも費用がかかります。

項目年間概算費用
定期検査15万円〜30万円
薬物療法30万円〜80万円

以上

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