カンピロバクター感染症

カンピロバクター感染症(Campylobacter Infection)とは、カンピロバクター属の細菌によって引き起こされる感染症です。

この細菌への感染経路としては、主に生の鶏肉や殺菌処理が不十分な乳製品、汚染された水などが挙げられます。

感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は通常2日から5日程度で、代表的な症状は下痢、発熱、腹痛などです。

症状が重篤化した場合、敗血症や髄膜炎などの深刻な合併症を発症するリスクがあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

カンピロバクター感染症の種類(病型)

カンピロバクター感染症は、感染部位や病態の違いによって複数の種類(病型)に分けられます。

腸管感染型:最も一般的な病型

腸管感染型は、カンピロバクター感染症の中で最も発生頻度が高い病型です。 この病型では、カンピロバクターが腸管に感染し、炎症反応を引き起こします。

病型感染部位主な症状
腸管感染型腸管下痢、腹痛、発熱
敗血症型血液高熱、悪寒、ショック症状

多くの場合、腸管感染型は自然治癒の経過をたどりますが、重症化した際には入院治療が必要となる場合もあります。

敗血症型:重篤な合併症のリスクがある病型

敗血症型は、カンピロバクターが血液中に侵入し、全身性の感染を引き起こす病型です。

この病型では、高熱、悪寒、ショック症状などの症状が現れ、重篤な合併症を引き起こす危険性があります。

敗血症型は、免疫力が低下している人や基礎疾患を有する人に多く見られる傾向があり、早期の診断と治療介入が重要です。

胆道感染型:胆道系に感染する病型

胆道感染型は、カンピロバクターが胆道系に感染する病型です。 この病型では、胆嚢炎や胆管炎などの合併症を併発することがあります。

  • 胆嚢炎:胆嚢の炎症
  • 胆管炎:胆管の炎症
  • 肝膿瘍:肝臓に膿が貯留する状態
病型感染部位主な合併症
胆道感染型胆道系胆嚢炎、胆管炎、肝膿瘍
その他の局所感染型腸管以外の臓器髄膜炎、心内膜炎、関節炎

胆道感染型の治療には、抗菌薬投与と症状に応じた対症療法が必要です。

その他の局所感染型:様々な臓器に感染する病型

その他の局所感染型は、カンピロバクターが腸管以外のさまざまな臓器に感染する病型です。

この病型では、感染部位によって合併症を引き起こす可能性があります。

  • 髄膜炎:髄膜の炎症
  • 心内膜炎:心臓の内膜の炎症
  • 関節炎:関節の炎症

カンピロバクター感染症の主な症状

カンピロバクター感染症の代表的な症状としては、腹痛、下痢、発熱などが挙げられ、感染した病型によってその症状や重篤度合いが異なります。

腸管感染型

腸管感染型の主な症状

症状頻度
腹痛80-90%
下痢90-100%
発熱50-70%

下痢は、水様性あるいは血性のものが見られ、重症化したケースでは1日に10回を超える頻繁な下痢が起こる場合もあります。

腹痛に関しては、下腹部を中心に痙攣するような痛みが特徴的です。

また、発熱は38℃以上の高熱となることが多く、数日から1週間ほど継続することがあります。

他にも、悪心や嘔吐、倦怠感といった全身的な症状が現れることも。

敗血症型

敗血症型は、菌血症を伴う全身感染型であり、重篤な経過をたどる可能性があります。

主な症状

  • 高熱
  • 悪寒
  • 全身倦怠感
  • 意識障害
  • ショック症状

特に高齢者や免疫抑制状態の患者さんでは、敗血症型を発症するリスクが高くなります。

敗血症型では、感染が全身に波及し、多臓器不全を引き起こす危険性があるため、迅速な診断と集中治療が不可欠です。

胆道感染型

胆道感染型の症状

症状頻度
右上腹部痛70-80%
発熱60-70%
黄疸30-40%

右上腹部の痛みと圧痛が特徴的で、発熱や黄疸を伴うことが多いです。

胆道感染型は、胆石や胆道系の解剖学的異常などの基礎疾患を有する患者さんに多くみられます。

その他の局所感染型

その他の局所感染型としては、腹膜炎、肝膿瘍、膵炎、虫垂炎、腸重積などがあります。

これらの病型では、感染局所の症状に加えて、発熱や全身症状を伴うことが多いです。

局所感染型の症状は、感染臓器によって異なりますが、いずれも重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

カンピロバクター感染症の原因・感染経路

カンピロバクター感染症は、カンピロバクター属の細菌による感染が原因であり、主に汚染された食品や水を介して感染が成立します。

カンピロバクター属の細菌が原因

カンピロバクター感染症の原因となるのは、カンピロバクター属の細菌です。

この細菌は、グラム陰性の微好気性菌であり、主にカンピロバクター・ジェジュニとカンピロバクター・コリが感染症の原因菌として知られています。

菌種特徴
カンピロバクター・ジェジュニ最も頻度が高い原因菌
カンピロバクター・コリ次に頻度が高い原因菌
カンピロバクター・フェタス家畜の流産の原因菌
カンピロバクター・ウプサリエンシス犬や猫の腸管内に存在

これらの細菌は、家畜や家禽の腸管内に常在しており、食肉の処理過程において肉を汚染する可能性があります。

特に、鶏肉は汚染率が高く、注意が必要です。

汚染された食品や水が主な感染源

カンピロバクター感染症の主な感染源

  • 汚染された鶏肉や牛肉などの食肉
  • 汚染された未殺菌乳
  • 汚染された水
  • 汚染された野菜や果物
感染源感染リスク
汚染された食肉高い
汚染された未殺菌乳高い
汚染された水中程度
汚染された野菜や果物低い

これらの感染源は、カンピロバクターに汚染されており、その汚染源から菌が体内に侵入することで感染が成立します。

特に、加熱が不十分な食品や生の食品を喫食することが、感染のリスクを高める要因です。

感染経路は経口感染が主体

カンピロバクター感染症の主な感染経路は、経口感染です。

また、以下のような感染経路も知られています。

  • 人から人への感染(糞口感染)
  • ペットからの感染(犬や猫など)
  • 感染動物との直接接触による感染
  • 母子感染(出産時に新生児が感染)

ただし、人から人への感染や動物からの感染は、食品や水を介した感染と比較すると発生頻度は低いです。

カンピロバクターの感染成立のメカニズム

カンピロバクターが体内に侵入すると、主に小腸に定着し、増殖します。

  1. 小腸粘膜への定着と炎症の惹起
  2. 腸管上皮細胞への侵入と炎症性サイトカインの産生
  3. 腸管バリア機能の破綻と細菌の侵入
  4. 全身性の炎症反応と臓器障害

カンピロバクターは、腸管粘膜に定着し、炎症反応を引き起こすことで、下痢や腹痛などの症状を引き起こします。

また、重症化すると、菌血症や敗血症などの全身性の感染症を引き起こす危険性も。

診察(検査)と診断

カンピロバクター感染症を診断するためには、患者さんの症状や発症に至った経緯の聞き取り、身体所見の確認、各種検査結果の評価を総合的に行い、確定診断をくだします。

問診と身体診察

診察でまず行うことが、患者さんの症状や発症時期、食事歴、海外渡航歴などの詳細な問診です。

下痢、腹痛、発熱などの典型的な症状がある場合、カンピロバクター感染症を疑い、身体診察では、腹部の圧痛や反跳痛、腸雑音の亢進などの所見を確認します。

身体所見頻度
腹部圧痛70-80%
腸雑音亢進50-60%
反跳痛20-30%

これらの所見は非特異的ですが、カンピロバクター感染症を示唆する重要な手がかりです。

臨床診断に有用な検査

臨床診断を支持する検査

  • 血液検査(白血球数増加、CRP上昇など)
  • 便培養検査(カンピロバクターの分離同定)
  • 迅速診断キット(便中抗原の検出)

血液検査では、炎症反応を反映する所見が得られることが多いです。

特に、白血球数の増加やCRPの上昇は、細菌感染症を示唆する重要な所見となります。

検査項目陽性率
白血球数増加50-70%
CRP上昇70-80%

便培養検査は、カンピロバクターの分離同定に用いられる確定診断法です。

選択培地を用いて菌を分離し、生化学的性状や薬剤感受性などを確認することで、カンピロバクターの同定が可能となります。

迅速診断キットは、便中のカンピロバクター抗原を検出する方法であり、短時間で結果が得られるため、臨床診断に有用です。

ただし、感度や特異度は培養検査に劣るため、確定診断には用いられません。

確定診断

カンピロバクター感染症の確定診断は、原因菌の分離同定によって行われます。

患者さんの便を選択培地に接種し、37℃で48〜72時間培養することで、カンピロバクターの発育を確認します。

分離されたカンピロバクターの特徴

  • グラム陰性の螺旋状桿菌
  • 培養48時間以内に発育
  • 42℃でも発育可能
  • ナリジクス酸に感受性

また、PCR法などの遺伝子検査を用いることで、より迅速かつ特異的な診断が可能です。

その他の検査

  • 内視鏡検査:重症例や合併症が疑われる場合に行われることがあり、大腸粘膜の発赤、浮腫、びらん、潰瘍などの所見が認められた場合、カンピロバクター感染症を強く疑います。
  • 腹部超音波検査腹・部CT検査:腸重積や虫垂炎などの合併症の評価に用いられます。

カンピロバクター感染症の治療法と処方薬、治療期間

カンピロバクター感染症の治療は、抗菌薬の投与と対症療法を組み合わせることが基本です。

抗菌薬療法が治療の中心

カンピロバクター感染症の治療において、抗菌薬が中心的な役割を果たします。

使用される抗菌薬

抗菌薬特徴
マクロライド系第一選択薬、アジスロマイシンなど
フルオロキノロン系重症例や合併症がある場合に使用

抗菌薬の選択は、患者さんの年齢、重症度、基礎疾患の有無などを考慮して行われます。

対症療法も重要

抗菌薬療法と併せて、対症療法も重要です。

行われる対症療法

  • 補液:脱水の予防と改善
  • 整腸剤:腸管機能の調整
  • 止痢薬:必要に応じて使用
  • 解熱鎮痛薬:発熱や疼痛の緩和

対症療法は、患者さんの症状に応じ組み合わせて行われます。

治療期間は症状によって異なる

カンピロバクター感染症の治療期間は、患者さんの症状や重症度によって異なります。

症状治療期間
軽症3~5日程度
中等症5~7日程度
重症7日以上

一般的に、症状が改善し、排菌が陰性化するまで治療を継続します。

合併症がある場合は注意が必要

カンピロバクター感染症では、まれに重篤な合併症を引き起こすことがあります。 合併症がある場合は、より慎重な治療が必要です。

  • ギラン・バレー症候群
  • 反応性関節炎
  • 溶血性尿毒症症候群

予後と再発可能性および予防

カンピロバクター感染症は治療を行うことで良好な予後が期待できますが、一定の割合で再発のリスクがあり、食品の衛生管理を徹底し、感染予防対策を講じることが大切です。

治療後の予後

カンピロバクター感染症の多くは、治療により1週間以内に改善します。

重症例や合併症を有する場合でも、抗菌薬治療と支持療法により予後は良好です。

米国での調査では、カンピロバクター感染症患者の予後は以下のように報告されています。

予後割合
完治90-95%
再発5-10%
死亡0.1-0.2%

治療を受けた場合、大部分の患者は後遺症なく回復しますが、まれに関節炎やギラン・バレー症候群などの合併症を発症することがあります。

再発の可能性

カンピロバクター感染症は一度罹患すると、一定期間は免疫が獲得されるため、短期間での再発は少ないとされています。

しかし、長期的には再発のリスクがあり、特に免疫力の低下した高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは注意が必要です。

再発のリスク因子

  • 免疫抑制状態
  • 基礎疾患の存在
  • 不十分な治療
  • 再暴露

再発を防ぐためには、治療を行うことに加え、感染源への再暴露を避けることが重要です。

感染予防の重要性

カンピロバクター感染症の予防には、食品の安全性確保と感染対策の両面からのアプローチが必要です。

食品由来の感染を防ぐための対策

予防対策具体例
食品の加熱中心部まで十分に加熱する
交差汚染の防止生肉と他の食品を分けて取り扱う
手洗いの徹底調理前後や食事前に手を洗う

また、感染者からの二次感染を防ぐためには、手洗いの徹底や汚染物の処理に注意が必要です。

保育所や高齢者施設などの集団生活の場では、感染予防対策の徹底が求められます。

カンピロバクター感染症の治療における副作用やリスク

カンピロバクター感染症の治療では、抗菌薬の使用に伴う副作用やリスクを十分に理解し、対応する必要があります。

抗菌薬の副作用に注意

カンピロバクター感染症の治療に用いられる抗菌薬は、副作用を引き起こす可能性があります。

主な副作用

抗菌薬副作用
マクロライド系腹痛、下痢、悪心、嘔吐
フルオロキノロン系腱障害、中枢神経系の副作用

抗菌薬耐性菌の出現リスク

抗菌薬の乱用は、抗菌薬耐性菌の出現につながる可能性があります。

抗菌薬耐性菌が出現すると、治療効果が低下し、感染症の重症化や治療期間の延長を招くリスクがあります。

  • 抗菌薬の必要性を十分に検討する
  • 抗菌薬は医師の指示通りに使用する
  • 抗菌薬の予防的投与は避ける

基礎疾患がある場合のリスク

カンピロバクター感染症の治療では、患者さんの基礎疾患を考慮する必要があります。

注意すべき基礎疾患

基礎疾患リスク
免疫不全重症化、治療効果の低下
慢性肝疾患肝機能障害の悪化
腎機能障害抗菌薬の排泄遅延、副作用の増強

合併症の発現リスク

カンピロバクター感染症では、まれに重篤な合併症を引き起こすことがあります。

合併症発現の要因

  • 高齢者
  • 免疫力の低下
  • 基礎疾患の存在

合併症の発現を防ぐには、早期の診断と治療が不可欠です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診料・再診料

項目費用
初診料3,000円~5,000円
再診料1,000円~2,000円

検査費

カンピロバクター感染症の診断に必要な検査費用

検査項目費用
便培養検査3,000円~5,000円
血液検査5,000円~10,000円

処置費

点滴治療や補液などの処置費は、1回あたり3,000円から5,000円程度です。

重症例では、複数回の処置が必要になることがあります。

入院費

入院が必要な場合、1日あたりの入院費は、10,000円から30,000円程度です。

入院期間は、症状の重症度によって異なります。

以上

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