かぜ症候群(common cold syndrome)とは、ウイルスが原因で発症する上気道感染症の総称です。
かぜウイルスには100種類以上もの型があり、それぞれ症状の現れ方が異なります。
かぜ症候群の代表的な症状は、くしゃみ、鼻水、のどの痛み、咳、発熱です。ウイルスの型によっては頭痛や関節痛、筋肉痛なども伴います。
かぜ症候群の主な症状
かぜ症候群の主要な症状は、くしゃみ、鼻水、のどの痛み、咳、発熱などです。 これらの症状は、かぜウイルスが体内で増殖することによって起こります。
くしゃみと鼻水
くしゃみと鼻水は、かぜ症候群の初期症状として現れることが多いく、 鼻粘膜が刺激されることにより、くしゃみが誘発されます。
また、鼻水は、鼻粘膜に炎症が起こることで分泌量が増加し、 くしゃみと鼻水は、ウイルスを体外に排出するための生体防御反応です。
症状 | 特徴 |
くしゃみ | 鼻粘膜の刺激により誘発される |
鼻水 | 鼻粘膜の炎症により分泌量が増加することで生じる |
のどの痛みと咳
ウイルスがのどの粘膜に感染すると、炎症反応が起こり、のどが赤く腫れ上がって痛みを感じます。
咳は、のどや気管支の炎症によって生じる症状で、かぜ症候群の特徴的な症状の一つです。
咳は、のどや気管支に溜まった分泌物を体外に排出するための反射的な反応でもあります。
- のどの痛み:かぜウイルスによる炎症が原因
- 咳:のどや気管支の炎症によって生じる
発熱
発熱は、体内でウイルスと戦うために起こる生体防御反応の一つです。 体温が上昇することで、ウイルスの増殖を抑制し、免疫システムの働きを活発にします。
かぜ症候群では、通常、38℃以下の発熱が見られることが多いです。
症状 | 特徴 |
発熱 | 体内でウイルスと戦うための生体防御反応の一つ |
その他の症状
かぜ症候群では、倦怠感や頭痛、筋肉痛などの全身症状を伴うことがあります。
倦怠感は、体がだるく感じる症状で、ウイルスに感染したことで生じるサイトカインという物質の影響によるものです。
頭痛や筋肉痛は、発熱に伴って起こることが多く、体の各所に炎症が広がっていることを示唆しています。
これらの症状は、体内でのウイルスの増殖や炎症反応によって引き起こされます。
かぜ症候群の原因・感染経路
かぜ症候群は、多種多様なウイルスが原因となって発症する感染症です。
かぜ症候群の主な原因ウイルス
かぜ症候群を引き起こすウイルスは、200種類以上もあり、 その中でも特に頻度が高いのが、ライノウイルスです。
また、コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなども原因ウイルスとして知られています。
ウイルス名 | 感染頻度 |
ライノウイルス | 30〜50% |
コロナウイルス | 10〜15% |
RSウイルス | 5〜15% |
アデノウイルス | 5〜10% |
ウイルスは季節によって流行の時期が異なり、ライノウイルスは秋から冬にかけて、RSウイルスは冬から春にかけて流行ります。
かぜウイルスの感染経路
かぜウイルスの感染経路
- 飛沫感染:感染者のくしゃみや咳などの飛沫に含まれるウイルスを吸い込むことで感染します。
- 接触感染:ウイルスが付着した手指や物品などを介して感染します。
- 空気感染:密閉された空間内でウイルスを含んだ小さな飛沫が長時間浮遊し、それを吸い込むことで感染します。
中でも飛沫感染と接触感染が主要な感染経路です。 感染者との距離が近い際や、手指を介してウイルスが口や鼻から侵入することで感染リスクが高まります。
かぜウイルスの感染力と生存期間
かぜウイルスは感染力が非常に強く、特にライノウイルスは、わずか数個のウイルス粒子でも感染が成立します。
ウイルス名 | 感染に必要なウイルス量 |
ライノウイルス | 1〜10個 |
コロナウイルス | 数百個 |
RSウイルス | 数千個 |
また、ウイルスの種類によって環境中での生存期間に違いがあり、一般的にウイルスは低温・乾燥した環境下で長く生存する傾向にあります。
ライノウイルスは20℃程度の室温で数時間から数日間、コロナウイルスは4℃程度の低温下で数日から1週間程度生存可能です。
診察(検査)と診断
かぜ症候群の診察では、患者さんの症状や身体の状態を詳しく観察し、必要な検査を行います。
かぜ症候群の診察方法
かぜ症候群の診察では、まず患者さんの症状を詳しく聞くことが大切です。 発熱、咳、鼻水、喉の痛み、だるさなどの典型的な症状があるかを確認します。
症状 | 確認事項 |
発熱 | 体温測定 |
咳 | 頻度、痰の有無 |
また、身体の状態として、喉の発赤、首のリンパ節の腫れ、肺の音の異常などを観察します。
かぜ症候群の検査方法
かぜ症候群の確定診断のためには、ウイルスの検査が必要です。
代表的な検査方法
- 鼻の拭き取り液の PCR 検査
- 喉の拭き取り液の迅速抗原検査
- 血液中の抗体価の測定
検査方法 | 検体 | 検出対象 |
PCR 検査 | 鼻の拭き取り液 | ウイルスの遺伝子 |
迅速抗原検査 | 喉の拭き取り液 | ウイルスの抗原 |
血清抗体価測定 | 血液 | ウイルスに特異的な抗体 |
ただし、検査結果が陰性であっても、臨床症状からかぜ症候群と診断されることもあります。
かぜ症候群の臨床診断
かぜ症候群の臨床診断は、症状や身体の状態、検査結果を総合的に判断して下されます。
典型的な症状があり、他の病気が除外された場合、かぜ症候群と診断されることが多いです。
一方、症状が典型的でない場合や、重症化が心配される場合は、他の病気の可能性も考える必要があります。
かぜ症候群の治療法と処方薬、治療期間
かぜ症候群は、多くの場合自然に治癒する疾患ですが、症状をやわらげたり合併症を予防したりするためには治療が必要とされます。
治療の中心は対症療法で、休養、水分補給、栄養をしっかりとることが大切です。
対症療法
かぜ症候群の治療では、症状に合わせた対症療法が主に行われます。
発熱や頭痛、筋肉痛などの症状には、アセトアミノフェンやイブプロフェンといった解熱鎮痛薬が処方されるケースが多いです。
薬剤名 | 一般名 |
タイレノール | アセトアミノフェン |
アドビル | イブプロフェン |
咳には、デキストロメトルファンやコデインリン酸塩などの鎮咳薬が使われ、鼻水や鼻づまりには、抗ヒスタミン薬や血管収縮点鼻薬が効果的です。
のどの痛みをやわらげるには、トローチやうがい薬が役立ちます。
抗菌薬の使用
かぜ症候群の原因のほとんどはウイルスであるため、通常は抗菌薬を使用しません。 不必要に抗菌薬を使うと、耐性菌が出現する危険性があるためです。
しかし、次のような細菌感染症を併発していると考えられる場合は、抗菌薬の使用を検討します。
- 中耳炎
- 副鼻腔炎
- 肺炎
治療期間
かぜ症候群の治療期間は、一般的には7日から10日ほどです。 多くの場合、この期間内で症状は改善に向かいます。
ただし、咳などの症状は長引くことがあり、2週間から3週間続くこともあります。
症状 | 治療期間 |
発熱、頭痛、筋肉痛 | 3日から5日 |
咳嗽 | 2週間から3週間 |
鼻汁、鼻閉 | 7日から10日 |
かぜ症候群の治療と予後
かぜ症候群の治療は、基本的に対症療法が中心で、 安静と十分な休養、 また、水分補給も大切です。
治療法 | 内容 |
対症療法 | 症状に応じた薬物療法 |
安静 | 体を休めること |
かぜ症候群の再発可能性
かぜ症候群は、同じウイルスに再感染する可能性があり、特に、免疫力が低下している場合は、再発のリスクが高くなります。
再発のリスクが高くなる方
- 高齢者
- 慢性疾患を持っている人
- 免疫抑制剤を使用している人
かぜ症候群の予防
かぜ症候群の予防に有効な対策
予防法 | 内容 |
手洗い | 石鹸と流水で手を洗う |
マスクの着用 | 飛沫感染を防ぐ |
適度な湿度の維持 | 乾燥を防ぐ |
十分な睡眠 | 免疫力を維持する |
かぜ症候群の治療における副作用やリスク
かぜ症候群の治療では、患者さんの状態や使用する薬剤に応じて、副作用やリスクがあります。
対症療法薬の副作用とリスク
かぜ症候群の症状をやわらげるために使われる対症療法薬にも、副作用のリスクがあります。
解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンは肝障害を起こす可能性があり、過剰投与や長期連用は避けなければなりません。
また、咳止めシロップに含まれるデキストロメトルファンやコデインは、以下のような副作用を起こすことがあります。
- 眠気、めまい
- 便秘、悪心、嘔吐
- 口渇、尿閉
- アレルギー反応
これらの副作用は、患者さんの状態や他の薬剤との相互作用によって、重症化するリスクがあります。
抗菌薬の副作用とリスク
かぜの原因の大部分はウイルスであり、抗菌薬は効果がありません。
しかし、かぜの合併症として細菌感染症を発症した場合には、抗菌薬が使用されることがあります。
かぜに対して安易に抗菌薬を処方することのリスク
- 抗菌薬の副作用リスクの増大
- 薬剤耐性菌の出現と蔓延
- 医療費の増加
ウイルス感染症であるかぜに対して抗菌薬を使用しても効果はなく、副作用のリスクだけが高まってしまいます。
細菌感染症の合併が明らかな場合にのみ、抗菌薬を選択し、処方することが大切です。
主な抗菌薬の副作用
かぜの合併症として使用される主な抗菌薬とその副作用は、以下の通りです。
抗菌薬の種類 | 主な副作用 |
ペニシリン系 | アレルギー反応、胃腸障害、肝機能障害 |
セフェム系 | アレルギー反応、胃腸障害、腎機能障害 |
マクロライド系 | 胃腸障害、肝機能障害、心電図異常 |
ニューキノロン系 | 胃腸障害、中枢神経系の副作用、腱障害 |
副作用は、患者さんの年齢、基礎疾患、腎機能などによって、発現頻度や重症度が異なります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
感染症の一種であるかぜ症候群の治療にかかる費用は、おおむね数千円から数万円くらいが目安です。
初診料と再診料
初診料は、初めて医療機関を受診する際に必要な費用で、 再診料は、2回目以降の受診で必要な費用です。
種類 | 金額 |
初診料 | 3,000円~5,000円 |
再診料 | 600円~1,500円 |
検査費と処置費
かぜ症候群の診断に必要な検査としては、血液検査やX線撮影などがあり、これらの費用は数千円から1万円程度が一般的です。
また、点滴や投薬などの処置が必要な場合、別途処置費が発生します。
種類 | 金額 |
血液検査 | 3,000円~5,000円 |
X線撮影 | 2,000円~4,000円 |
点滴 | 3,000円~8,000円 |
入院費
重症のかぜ症候群で入院が必要となった場合、1日あたり1万円から3万円程度の入院費がかかります。
以上
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