腸管アデノウイルス(enteric adenovirus)とは、主に小児の消化器系に影響を与えるウイルス性疾患です。
主に経口感染によって体内に侵入し、下痢や嘔吐、発熱などの症状を引き起こし、また、まれに呼吸器症状を伴うこともあります。
感染力が強く、集団生活の場では注意が必要です。
腸管アデノウイルスの種類(病型)
腸管アデノウイルスは主に40型と41型の2つで、遺伝子構造や感染経路に違いがあります。
アデノウイルス40型
アデノウイルス40型は、腸管アデノウイルスの中でもよく見られる型で、主に乳幼児や小児に感染することが多く、成人での感染例は少ないです。
特徴 | アデノウイルス40型 |
主な感染対象 | 乳幼児、小児 |
遺伝子構造 | 比較的単純 |
アデノウイルス41型
一方、アデノウイルス41型は40型と並んで腸管アデノウイルスの主要な病型の一つです。
41型は40型と同様に主に小児に感染しますが、成人での感染例も40型より多く報告されています。
特徴 | アデノウイルス41型 |
主な感染対象 | 小児、一部成人 |
遺伝子構造 | やや複雑 |
腸管アデノウイルスの主な症状
腸管アデノウイルス感染症は、主に消化器系に影響を与え、下痢や嘔吐、腹痛などの症状が見られます。
アデノウイルス40型の主な症状
アデノウイルス40型は、比較的軽度の症状を引き起こすことが多いですが、感染力が強いため注意が必要です。
この型の特徴は急性の下痢で、程度は中程度、通常1週間程度で改善します。
嘔吐は40型感染の半数程度で見られ、下痢と同様に比較的短期間で収まります。
腹痛や腹部不快感も頻繁に報告される症状ですが、軽度から中程度です。
症状 | 特徴 |
下痢 | 急性、中程度、1週間程度 |
嘔吐 | 約50%で発症、短期間 |
腹痛 | 軽度から中程度 |
発熱 | 軽度または無し |
アデノウイルス41型の主な症状
アデノウイルス41型は、40型と比較してより重症の症状を引き起こす傾向があります。
この型の最も顕著な特徴は、持続性の下痢です。下痢は水様性で、2週間以上持続することもあり、頻度も高く、一日に何度も繰り返します。
嘔吐は41型感染でより頻繁に見られ、症状も強いです。
腹痛や腹部不快感は41型でより強く持続期間も長く、発熱は40型よりも高頻度で見られ、中等度から高度の熱が出ることがあります。
さらに、呼吸器症状(咳、鼻水など)を伴うことがあり、これは41型の特徴的な点です。
腸管アデノウイルスの原因・感染経路
腸管アデノウイルス感染症の原因となるウイルスは非常に感染力が強く、主に糞口経路で伝播します。
腸管アデノウイルス
腸管アデノウイルスは、アデノウイルス科に属するDNAウイルスの一種です。
非常に安定した構造を持ち、環境中で長期間生存できるので、感染拡大の原因にもなっています。
感染の原因
腸管アデノウイルス感染症は、感染者の糞便に含まれるウイルスが、さまざまな経路を通じて他の人に伝播することで感染が広がります。
特に注意すべきなのは、感染者が症状を示していない場合でもウイルスを排出する可能性があることです。
感染源 | 特徴 |
感染者の糞便 | 高濃度のウイルスを含む |
汚染された物品 | ドアノブ、おもちゃなど |
主な感染経路
腸管アデノウイルスの主な感染経路は、糞口感染です。
- 感染者との直接接触
- 汚染された食品や水の摂取
- ウイルスの付着した物品との接触後の手指を介した感染
感染リスクの高い環境
腸管アデノウイルスは集団生活の場では、密接な接触や共有物の使用により感染が広がりやすいです。
また、衛生状態の悪い地域や施設でも感染リスクが高まります。
環境 | 感染リスク |
保育施設 | 高 |
学校 | 中~高 |
一般家庭 | 低~中 |
診察(検査)と診断
腸管アデノウイルス感染症の診断は、臨床症状の観察、問診、身体診察から始まり、必要に応じて各種検査を行います。
初期診察と臨床診断
問診では、症状の発症時期、経過、重症度、周囲の感染状況などについて詳しく聞き、また、最近の旅行歴や食事内容、接触した人物の健康状態などの情報も重要な手がかりです。
身体診察では、全身状態の評価、腹部の触診、脱水症状の有無などを確認します。
診察項目 | 確認内容 |
問診 | 症状の詳細、発症時期、周囲の感染状況 |
身体診察 | 全身状態、腹部所見、脱水症状 |
一般的な検査
臨床診断後、必要に応じていくつかの検査を行うことがあります。
- 血液検査 白血球数、CRP値などの炎症マーカーを確認
- 便検査 便の性状、潜血、白血球の有無を確認
- 尿検査 脱水の程度を評価
- 電解質検査 特に重症例や脱水が疑われる場合に実施
検査結果は、症状の重症度評価や他の疾患との鑑別に役立ちます。
腸管アデノウイルスの治療法と処方薬、治療期間
腸管アデノウイルス感染症の治療は主に対症療法です。
対症療法の基本
腸管アデノウイルス感染症の治療において、最も重要なのは十分な水分補給です。
下痢や嘔吐による脱水を防ぐため、経口補水液や電解質飲料の摂取が推奨され、重度の脱水状態の際には、点滴による水分・電解質の補給が必要となることもあります。
処方される可能性のある薬剤
腸管アデノウイルス感染症に対して特効薬はありませんが、症状をやわらげるために薬剤が処方されることがあります。
- 制吐剤(メトクロプラミドなど) 嘔吐を抑える
- 整腸剤(ビフィズス菌製剤など) 腸内環境を整える
- 止痢剤(ロペラミドなど) 下痢を抑える
薬剤の種類 | 主な効果 |
制吐剤 | 嘔吐の軽減 |
整腸剤 | 腸内環境の改善 |
抗ウイルス薬の使用について
腸管アデノウイルス感染症に対して、通常、抗ウイルス薬は使用されません。
多くの場合、感染が自然に治癒することや、既存の抗ウイルス薬の効果が限定的であるためです。
治療期間
腸管アデノウイルス感染症の治療期間は、通常1週間から10日程度です。
多くの場合、症状は徐々に改善していきますが、完全な回復までには時間がかかることがあります。
治療期間 | 一般的な経過 |
1週間 | 症状のピーク |
2週間 | 徐々に改善 |
予後と再発可能性および予防
腸管アデノウイルス感染症は一般的に予後は良好で、完全に回復します。
ただし、免疫機能が低下している人や乳幼児、高齢者では重症化のリスクがあるため注意が必要です。
予後の一般的な傾向
健康な成人では、1週間程度で自然に回復することが多いですが、個人の免疫状態や感染したウイルスの型によっては、回復までの期間が延長することもあります。
患者群 | 予後の傾向 |
健康な成人 | 1週間程度で回復 |
乳幼児・高齢者 | 回復に時間がかかる場合あり |
重症化リスクと注意点
一部の患者さんでは、脱水症状が進行しやすく、入院が必要になることもあります。
- 乳幼児
- 高齢者
- 免疫機能が低下している人
- 慢性疾患を持つ人
- 栄養状態が悪い人
脱水症状が進行しやすく、入院が必要になる場合もあります。
再発と再感染のリスク
腸管アデノウイルス感染症に罹患した後、同じ型のウイルスによる再発のリスクは比較的低いです。
感染後に獲得される免疫によるものですが、この免疫の持続期間については個人差があります。
再感染のタイプ | リスク |
同じ型による再発 | 低い |
異なる型による再感染 | あり得る |
長期的な影響
一部の患者さんでは、感染後しばらくの間、消化器系の不調が続く可能性があります。
これは、ウイルス感染による腸管粘膜の損傷が完全に修復されるまでに時間がかかることが原因です。
予防法と日常的な注意点
腸管アデノウイルス感染症の予防には、基本的な衛生管理が必要です。
- 手洗い(特に食事前やトイレ使用後)
- 調理器具や食器の清潔な管理
- 感染者との密接な接触を避ける
- 公共のトイレなどでの衛生管理
- 食品の十分な加熱調理
- 定期的な環境消毒(特に共用のタッチパネルや手すりなど)
腸管アデノウイルスの治療における副作用やリスク
腸管アデノウイルス感染症の治療は主に対症療法が中心ですが、使用される薬剤や治療法によっては副作用やリスクが伴う場合があります。
制吐剤使用に伴うリスク
制吐剤のメトクロプラミドなどの薬剤では、錐体外路症状と呼ばれる神経系の副作用が生じることがあります。
不随意運動や筋肉の硬直などが含まれ、小児や若年者で発生しやすいです。
また、ドパミン受容体遮断作用を持つ制吐剤では、まれに高熱や筋強剛、意識障害などの症状が現れる、悪性症候群というリスクもあります。
副作用 | 主な症状 |
錐体外路症状 | 不随意運動、筋肉硬直 |
悪性症候群 | 高熱、筋強剛 |
止痢剤使用のリスクと注意点
ロペラミドなどの薬剤は、腸管の運動を抑制することで下痢を止める効果がありますが、同時に有害な物質を体内に留めてしまう可能性があります。
そのため、小児や重症例では使用が推奨されていません。
感染性下痢の場合、止痢剤の使用により症状が遷延化したり、合併症のリスクが高まったりする可能性があるためです。
また、長期使用による腸管機能の低下や、まれに麻痺性イレウスを引き起こすリスクも指摘されています。
水分補給と電解質バランスのリスク
点滴による水分・電解質補給は、脱水状態の改善に効果的ですが、いくつかのリスクがあります。
- 過剰輸液による循環器系への負担
- 電解質バランスの急激な変動
- 点滴部位の感染
高齢者や心疾患のある患者さんでは、体内の水分バランスが崩れることで、心臓に過度の負担がかかり、呼吸困難や浮腫などの症状が現れることがあります。
また、ナトリウムやカリウムの急激な変動は、不整脈や筋力低下、意識障害などの深刻な症状につながる可能性も。
リスク | 影響を受ける系統 |
過剰輸液 | 循環器系 |
電解質異常 | 神経系、筋肉 |
抗ウイルス薬使用のリスク
重症例や免疫不全の方には、シドフォビルなどの抗ウイルス薬が使用される場合がありますが、重大な副作用のリスクがあります。
主な副作用は、腎毒性や骨髄抑制などです。
腎機能障害を引き起こす可能性が高いため、使用前後の腎機能のモニタリングが不可欠です。
また、骨髄抑制により、貧血や白血球減少、血小板減少などが生じる可能性があります。
さらに、まれではありますが、眼毒性や肝機能障害なども報告されています。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
腸管アデノウイルス感染症の治療費は、症状の重症度や治療期間によって異なりますが、一般的に外来治療で済むケースが多く、比較的低額です。
外来治療の場合の費用
初診料は約2,800円、再診料は約730円で、検査費用は、便検査で約1,500円、血液検査で約2,000円程度です。
項目 | 費用 |
初診料 | 約2,800円 |
再診料 | 約730円 |
便検査 | 約1,500円 |
入院治療の場合の費用
重症化して入院が必要な場合、費用は大幅に増加します。
入院基本料は1日あたり約10,000円から30,000円程度ですが、点滴などの処置費用が加わり、1日の治療費は30,000円以上になることもあります。
薬剤費
重症化しなければ、対症療法が中心となるため、薬剤費は比較的低額です。
- 整腸剤 約500円/日
- 解熱剤 約300円/回
- 制吐剤 約600円/回
- 補液用の電解質製剤 約1,000円/本
以上
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