ヘルパンギーナ – 感染症

ヘルパンギーナ(herpangina)とは、コクサッキーウイルスやエコーウイルスが原因で発症する急性の口腔咽頭炎です。

夏季に流行することが多く、主に乳幼児や小児が感染しやすい病気ですが、免疫を持っていない大人が感染することもあります。

発症初期は高熱と喉の痛みが見られ、その後、口内に水疱やアフタのような口内炎ができることが特徴です。

ヘルパンギーナは感染力が非常に強く、飛沫感染や接触感染によって容易に広がってしまうため、感染予防に細心の注意を払う必要があります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ヘルパンギーナの種類(病型)

ヘルパンギーナには、いくつかの種類があり、それぞれ症状や重症度が異なります。

古典型ヘルパンギーナ

古典型ヘルパンギーナは、最も一般的な病型で、発熱、咽頭痛、口蓋や咽頭後部の水疱性病変が特徴的です。

症状特徴
発熱38〜40℃程度
咽頭痛中等度から重度
水疱性病変口蓋や咽頭後部に多発

無水疱型ヘルパンギーナ

無水疱型ヘルパンギーナは、水疱性病変を伴わない病型で、この病型では、発熱と咽頭痛が主な症状です。

水疱性病変が見られないため、診断が難しい場合があります。

重症型ヘルパンギーナ

重症型ヘルパンギーナは、高熱、激しい咽頭痛、多発性の水疱性病変が見られ、また、脱水や呼吸困難などの合併症を引き起こすこともあります。

合併症特徴
脱水高熱や水分摂取不足により引き起こされる
呼吸困難喉の腫れや水疱により引き起こされる

非定型型ヘルパンギーナ

非定型型ヘルパンギーナは、典型的な症状とは異なる症状を示します。

  • 下痢や嘔吐などの消化器症状
  • 発疹や皮膚病変
  • 関節痛や筋肉痛

非定型型ヘルパンギーナは、診断が難しい場合があるため、注意が必要です。

ヘルパンギーナの主な症状

ヘルパンギーナは、手足口病と並ぶ夏かぜの代表的な感染症で、主な症状は、突然の高熱と喉の痛みです。

突然の高熱

ヘルパンギーナに感染すると、突然39度以上の高熱が出ることがあります。

高熱は数日間続くことが多く、特に乳幼児の場合は熱性けいれんを起こすリスクもあるため注意が必要です。

年齢平均最高体温
0歳39.5度
1〜3歳39.8度
4歳以上39.2度

喉の痛み

ヘルパンギーナでは、喉の奥に水疱ができ、強い喉の痛みを伴います。 水疱は口蓋垂、舌、扁桃腺などに多発し、食事が摂れないほどの痛みが生じることも。

  • 口蓋垂
  • 扁桃腺

水疱は1週間程度で自然に治りますが、二次感染を防ぐためにも清潔に保つことが大切です。

その他の症状

ヘルパンギーナで他にみられる症状

症状割合
食欲不振80%
頭痛50%
腹痛30%
嘔吐20%

ヘルパンギーナの原因・感染経路

ヘルパンギーナは、コクサッキーウイルスA群やエンテロウイルス71型を原因とするウイルス性の感染症で、 主に糞口経路で感染が拡大します。

ヘルパンギーナの主な原因ウイルス

ヘルパンギーナの主な原因となるウイルスは以下の2種類です。

ウイルス名特徴
コクサッキーウイルスA群手足口病の原因ウイルスでもある
エンテロウイルス71型重症化リスクが高い

これらのウイルスは、いずれもエンテロウイルス属に分類されるRNA型ウイルスであり、ヒトの消化管内で増殖します。

コクサッキーウイルスA群は手足口病の原因ウイルスとしても知られており、ヘルパンギーナとの関連性があり、エンテロウイルス71型は重症化のリスクが高いため、特に注意が必要です。

ヘルパンギーナの主な感染経路

ヘルパンギーナの主な感染経路

  • 糞口感染
  • 飛沫感染

糞口感染は、ウイルスに汚染された手指などを介して口から感染するのに対し、飛沫感染は感染者のくしゃみや咳などの飛沫を吸い込むことで感染します。

乳幼児では手や指を触る習性があるため、糞口感染のリスクが高いです。

ヘルパンギーナウイルスの環境中での生存期間

ウイルス名環境中での生存期間
コクサッキーウイルスA群数日〜数週間
エンテロウイルス71型数日〜1ヶ月程度

ヘルパンギーナの原因となるウイルスは、環境中での生存期間が比較的長いので、ウイルスに汚染された玩具やタオルなどを介した間接的な感染リスクにも十分な注意が必要となります。

診察(検査)と診断

ヘルパンギーナを診断する際には、臨床所見と検査所見の両方を考慮します。

臨床診断

医師は、患者さんの症状や身体所見をもとに、臨床診断を下します。 ヘルパンギーナの特徴的な所見は、口の中に現れる水疱性の病変です。

部位特徴
口腔粘膜小水疱が多発
咽頭後壁発赤、腫脹

検査診断

ヘルパンギーナの確定診断を下すためには、ウイルス学的検査が必要です。

  • ウイルス分離・同定
  • 血清抗体価の測定
  • PCR法によるウイルス遺伝子の検出
検査法検体
ウイルス分離・同定咽頭ぬぐい液、水疱内容液
血清抗体価の測定急性期と回復期のペア血清
PCR法咽頭ぬぐい液、水疱内容液

鑑別診断

ヘルパンギーナと似たような症状を示す病気との鑑別も大切です。

主な鑑別疾患

  • 手足口病
  • ヘルペス性歯肉口内炎
  • アフタ性口内炎
  • 川崎病

診断のポイント

ヘルパンギーナの診断を行ううえで、次のような点がポイントになります。

  1. 特徴的な臨床所見を把握する
  2. ウイルス学的検査により確定診断を行う
  3. 類似疾患との鑑別を適切に行う

ヘルパンギーナの治療法と処方薬、治療期間

ヘルパンギーナの治療は、対症療法が中心で、痛み止めや解熱剤などの処方薬が用いられ、通常、1週間から10日程度で治癒に至ります。

ヘルパンギーナの治療において重視されるのは、体力の回復と二次感染の予防です。

発熱への対処

医師から処方される薬の代表例は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬です。

処方薬の例期待される効果
アセトアミノフェン解熱作用、鎮痛作用
イブプロフェン解熱作用、鎮痛作用、抗炎症作用

口内炎の治療法

口内炎がある場合は、含嗽薬が処方されることがあり、含嗽薬を使用することで、口内を洗浄・消毒でき、二次感染のリスクを下げられます。

重症な口内炎に対しては、ステロイド剤の使用が検討される場合も。

ステロイド剤には炎症を抑える作用があり、口内炎の治癒を早められます。

脱水症状への対処法

ヘルパンギーナでは、喉の痛みのために飲食が難しくなり、脱水症状を起こすことがあります。

脱水症状への対処法説明
点滴を用いた水分補給重度の脱水症状の際は、点滴が必要になることがある
経口補水液の使用水分と電解質をバランスよく補給できる
こまめな水分補給特に乳幼児の場合は、こまめな水分補給が重要

点滴で水分を補給する必要が出てくる可能性があり、特に乳幼児の場合は、脱水症状に十分な注意が必要です。

治療期間と注意すべき点

ヘルパンギーナの治療期間は、通常1週間から10日程度です。

この期間中は、安静を保ち、体力の回復を図ることが大切で、手洗いとうがいを徹底し、二次感染を予防します。

  • – 十分な休養を取ること
  • – 喉の痛みが強い場合は、冷たい飲み物や柔らかい食事を摂ること
  • – 手洗いとうがいを欠かさないこと
  • – 人ごみを避け、感染拡大を防ぐこと

合併症への対応策

まれではありますが、ヘルパンギーナの合併症として、無菌性髄膜炎や脳炎などが発生するケースがあります。

起こりうる合併症治療法の例
無菌性髄膜炎安静にすること、対症療法を行うこと
脳炎抗ウイルス薬、ステロイド剤の使用

予後と再発可能性および予防

ヘルパンギーナの治療後の経過は一般的に良好で、再発の可能性は低いです。

ただし、免疫力が低下している患者さんや基礎疾患をお持ちの方は、再発するリスクがあります。

予後について

ヘルパンギーナは適切な治療を受ければ、通常1週間から10日程度で症状が良くなります。

合併症を起こすことはあまりありませんが、脱水や髄膜炎などを引き起こすことがあるので注意が必要です。

予後期間
症状改善1週間から10日程度
完治2週間から1ヶ月程度

再発可能性について

一度ヘルパンギーナにかかっても、必ずしも一生免疫ができるわけではありません。

再発する可能性が高くなるケース

  • 免疫力の低下している患者さん
  • 基礎疾患を持つ方
  • 不十分な治療だった場合

ただし、再発率は10%未満と報告されており、再発自体は珍しいです。

再発リスク割合
免疫力低下時高い
基礎疾患あり高い
不十分な治療高い
上記以外10%未満

再発予防のポイント

再発を防ぐためには、治療を行うことと、十分な休養を取ることが大切です。

また、手洗いの励行やマスクの着用など、一般的な感染症予防対策を実践することも再発予防に繋がります。

ヘルパンギーナの治療における副作用やリスク

ヘルパンギーナの治療では、症状の緩和と合併症の予防を目的とした薬剤が使用されますが、これらの薬剤には副作用やリスクが伴います。

治療薬の副作用

ヘルパンギーナの治療に用いられる薬剤は、主に解熱鎮痛剤やステロイド剤です。

解熱鎮痛剤は、胃腸障害、肝機能障害、腎機能障害などの副作用があり、特に長期的な使用や高用量の使用は、副作用のリスクを高めます。

ステロイド剤の副作用は、免疫抑制、血糖値の上昇、骨密度の低下などです。

長期間のステロイド剤の使用は、感染症のリスクを高めたり、成長障害を引き起こす可能性があります。

薬剤主な副作用
解熱鎮痛剤胃腸障害、肝機能障害、腎機能障害
ステロイド剤免疫抑制、血糖値上昇、骨密度低下

治療に伴うリスク

ヘルパンギーナの治療では、副作用以外にもいくつかのリスクがあります。

  • -治療の遅れによる合併症の発生
  • -不適切な薬剤の選択や用量による症状の悪化
  • -薬剤アレルギーやアナフィラキシー反応
  • -薬剤相互作用による予期せぬ有害事象

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

軽症の場合の治療費

軽症のヘルパンギーナであれば、自宅での安静と対症療法が中心です。

治療法費用
市販の痛み止め1,000円~2,000円程度
口内炎の塗り薬1,000円~2,000円程度

重症化した場合の治療費

ヘルパンギーナが重症化し、入院治療が必要になると、治療費は大幅に増加します。

治療内容費用
入院基本料(1日あたり)5,000円~10,000円
点滴治療5,000円~10,000円
検査費用(血液検査、ウイルス検査など)10,000円~30,000円

重症化すると、入院期間は1週間~2週間程度になり、総治療費が50万円以上になるケースもあります。

公的医療保険の適用

ヘルパンギーナの治療には、公的医療保険が適用されます。

ただし、入院時の食事代や差額ベッド代などは保険適用外なので、別途自己負担が発生します。

以上

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