侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)- 感染症

侵襲(しんしゅう)性肺アスペルギルス症(IPA invasive pulmonary aspergillosis)とは、アスペルギルス属の真菌が原因で肺に感染が起こる病気です。

免疫力が低下している人に発症するケースが多く見られ、肺に炎症や組織の壊死などの症状を引き起こします。

症状としては、発熱や咳、胸の痛みなどがあげられ、重症化した場合、呼吸不全に陥ることもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の種類(病型)

侵襲性肺アスペルギルス症には、いくつかの種類があり、それぞれ症状や進行速度、予後などが異なります。

急性侵襲性肺アスペルギルス症

急性侵襲性肺アスペルギルス症は、侵襲性肺アスペルギルス症の中で最も重篤な病型です。

特徴説明
症状の進行急速
免疫状態高度な免疫抑制状態

この病型は、高度な免疫抑制状態にある患者さんに発症することが多く、急速に進行します。

慢性壊死性肺アスペルギルス症

慢性壊死性肺アスペルギルス症は、急性型よりも緩やかな経過をたどる病型です。

特徴説明
症状の進行緩徢
免疫状態軽度から中等度の免疫抑制状態

軽度から中等度の免疫抑制状態にある患者に発症することが多く、急性型と比べて症状の進行が緩やかですが、治療を行わないと、重症化することもあります。

アスペルギローマ

アスペルギローマは、肺に既存の空洞性病変がある患者さんに発症する病型です。

  • 既存の空洞内にアスペルギルス菌糸が増殖
  • 菌球(fungus ball)を形成
  • 免疫抑制状態でない患者にも発症

この病型は、免疫抑制状態でない患者にも発症することがあり、症状は比較的軽度ですが、喀血のリスクがあるため注意が必要です。

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の主な症状

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)では、発熱や咳、胸の痛み、呼吸困難などの症状がよく見られます。

発熱

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の患者さんの多くは、高熱を発症します。 38度を超える発熱が続く場合は特に注意が必要です。

症状特徴
発熱38度以上の高熱が続く
乾性の咳が多い

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の患者さんは、乾いた咳を伴うことが多く、咳とともに血痰が出ることもあります。

胸痛

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の患者さんの中には、胸の痛みを訴える方おり、この胸痛は肺の炎症や組織の壊死によって引き起こされるものです。

症状特徴
胸痛肺の炎症や壊死が原因
呼吸困難重症化すると呼吸不全に至る

呼吸困難

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)が重症化してくると、呼吸困難な状態に陥ります。

呼吸困難時の症状

  • 息切れ
  • 呼吸数の増加
  • チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)

呼吸困難がさらに進行すると、呼吸不全を起こす危険性が出てくるので注意が必要です。

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の症状は、発症初期は非特異的なものが多いですが、病気が進むにつれてより特徴的な症状があらわれます。

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の原因・感染経路

侵襲性肺アスペルギルス症は、アスペルギルス属の真菌を吸い込むことが原因です。

アスペルギルス属真菌

IPAの原因となるのは、アスペルギルス属の真菌です。

主な原因菌種特徴
アスペルギルス・フミガタス最も一般的
アスペルギルス・フラバス二番目に多い

アスペルギルス属の真菌は、環境中に広く存在しており、特にアスペルギルス・フミガタスとアスペルギルス・フラバスが主要な原因菌種として知られています。

感染経路

IPAの主な感染経路は、アスペルギルス属真菌の胞子を吸入することです。

  • -空気中に浮遊する胞子を吸入
  • -胞子が肺に到達し、感染が成立
  • -免疫抑制状態の患者で感染リスクが高い

健康な人がアスペルギルス属真菌の胞子を吸入しても、通常は免疫システムによって排除されますが、免疫抑制状態の患者さんでは、胞子が肺に定着し、感染が成立する可能性が高くなります。

宿主要因

IPAの発症には、宿主要因が大きく関与しています。

主な宿主要因説明
免疫抑制状態感染リスクが高い
基礎疾患血液悪性腫瘍、臓器移植など

環境要因

IPAの発症には、環境要因も関係しています。

  • -建築現場や土木工事現場での曝露
  • -病院内での空調システムを介した曝露
  • -汚染された食品や水からの曝露

アスペルギルス属真菌は、建築現場や土木工事現場、病院内の空調システムなどを介して環境中に拡散したり、また、まれですが、汚染された食品や水からの曝露も、原因になることがあります。

診察(検査)と診断

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の診察と診断を行う際は、画像検査や血液検査、気管支鏡検査などを組み合わせて実施します。

画像検査

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の診察では、胸部X線検査やCT検査などの画像検査が重要な役割を果たします。

検査でみられる所見

検査所見
胸部X線検査浸潤影、空洞形成
CT検査すりガラス影、結節影、空洞形成

血液検査

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の診察では、血液検査も重要で、特に、アスペルギルス抗原検査(ガラクトマンナン抗原検査)は、侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の診断に有用です。

検査目的
アスペルギルス抗原検査アスペルギルス感染の有無を調べる
β-Dグルカン検査真菌感染の有無を調べる

気管支鏡検査

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)が疑われると、気管支鏡検査が検討されます。

気管支鏡検査でみられる所見

  • 気管支粘膜の発赤、浮腫
  • 気管支内腔の狭窄
  • 偽膜形成

また、気管支鏡検査では、気管支肺胞洗浄液(BALF)の採取や経気管支肺生検(TBLB)、アスペルギルスの培養や病理学的検査も行われます。

臨床診断と確定診断

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の臨床診断は、画像検査や血液検査、気管支鏡検査などの結果を総合的に判断します。

確定診断に必要な項目

  • – 肺組織や気管支肺胞洗浄液からのアスペルギルスの分離・同定
  • – 肺組織の病理学的検査でアスペルギルス感染の証明

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の治療法と処方薬

侵襲性肺アスペルギルス症の治療では、抗真菌薬の投与が中心的な役割を果たします。

抗真菌薬治療の目的

IPAに対する抗真菌薬治療の目的

  • アスペルギルス属真菌の増殖を抑制
  • 感染の進行を阻止
  • 患者の予後を改善

抗真菌薬は、アスペルギルス属真菌に直接作用し、増殖を抑制することで、感染の進行を阻止し、患者の予後を改善することを目指します。

一次治療薬

IPAの一次治療薬としての抗真菌薬

薬剤名投与経路
ボリコナゾール経口、静注
イサブコナゾール経口、静注

ボリコナゾールとイサブコナゾールは、アスペルギルス属真菌に対して優れた活性を示すアゾール系抗真菌薬で、経口または静注での投与が可能です。

代替治療薬

一次治療薬が無効だった場合、代替治療薬が使用されます。

薬剤名投与経路
アムホテリシンB静注
カスポファンギン静注

アムホテリシンBは、ポリエン系抗真菌薬の代表的な薬剤で、静注での投与が必要です。アスペルギルス属真菌に対する強力な活性を有しています。

カスポファンギンは、キャンディン系抗真菌薬に属し、こちらも静注での投与です。

治療に必要な期間と予後について

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の治療期間や予後は、患者さんの免疫状態や病変の広がり方、治療を開始するタイミングなどによってかなり変わってきます。

治療期間

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の治療期間は、通常、数週間から数ヶ月に及びます。

病状治療期間
軽症~中等症6~12週間
重症12週間以上

ただし、免疫抑制状態が改善しなかったり、治療抵抗性の場合は、さらに長期の治療が必要です。

予後に影響する因子

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の予後には、いくつかの因子が影響します。

  • 患者の免疫状態
  • 基礎疾患の種類と重症度
  • 診断の時期
  • 治療開始のタイミング
  • 治療薬剤の選択と投与方法

後遺症

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の治療後は、後遺症が残ることがあります。

  • 肺の線維化
  • 呼吸機能の低下
  • 気管支拡張症
  • 慢性肺アスペルギルス症

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)の治療における副作用やリスク

侵襲性肺アスペルギルス症の治療では、抗真菌薬の使用が欠かせませんが、副作用やリスクが伴います。

抗真菌薬の主な副作用

IPAの治療に用いられる抗真菌薬の副作用

薬剤主な副作用
ボリコナゾール視覚異常、肝機能障害、皮疹
アムホテリシンB腎機能障害、電解質異常、発熱

ボリコナゾールは、視覚異常や肝機能障害、皮疹などの副作用が比較的多く報告されており、アムホテリシンBは、腎機能障害や電解質異常、発熱などの副作用が問題となる場合があります。

薬物相互作用のリスク

IPAの治療では、抗真菌薬と他の薬剤との相互作用にも注意が必要です。

  • -ボリコナゾールとワルファリンの相互作用
  • -アゾール系抗真菌薬とカルシウム拮抗薬の相互作用
  • -アムホテリシンBとloop利尿薬の相互作用

特に、ボリコナゾールとワルファリンの相互作用は重大な出血のリスクがあるため、慎重なモニタリングが求められます。

免疫抑制状態に関連するリスク

IPAの患者は、基礎疾患や治療に伴う免疫抑制状態にあることが多く、リスク因子となります。

リスク因子説明
好中球減少感染防御能の低下
ステロイド使用免疫抑制作用

予防方法

侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)を予防するには、アスペルギルス属の真菌にさらされる機会を減らし、患者さん自身の感染に対する防御力を高めることが大切です。

環境対策

アスペルギルス属の真菌は、土壌や空気中に広く存在していて、特に、建設現場や園芸作業などでは、真菌の濃度が高くなることがあります。

場所対策
病室HEPAフィルター、陽圧換気
建設現場湿式工法、囲い込み

免疫抑制状態の患者さんは、これらの環境に近づかないようにすることが大切です。

マスクの着用

外出時や人混みの場所では、マスクを着用することで、真菌の吸入を防げます。

マスクの種類効果
サージカルマスク中程度
N95マスク高い

抗真菌薬の予防投与

ハイリスクの患者さんでは、抗真菌薬の予防投与が行われることがあります。

代表的な薬剤

  • イトラコナゾール
  • ボリコナゾール
  • ポサコナゾール
  • ミカファンギン

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

治療費の内訳

IPAの治療費は、主に以下の項目から構成されます。

項目内容
抗真菌薬ボリコナゾール、アムホテリシンBなど
入院費病室料、検査費、処置費など

抗真菌薬は高価であり、長期間の使用が必要となるため、治療費の大部分を占めることがあります。

また、IPAの治療では入院が必要となることが多く、入院費も治療費全体に大きく影響します。

治療費の目安

IPAの治療費は、患者さんの状態や治療期間によって大きく異なりますが、以下のような目安があります。

  • -抗真菌薬(ボリコナゾール):1日あたり約5,000円〜10,000円
  • -入院費:1日あたり約30,000円〜50,000円
  • -総治療費:数百万円〜1,000万円以上

ただし、これらはあくまで目安です。

公的支援制度

IPAの治療費負担を軽減するために、公的支援制度が利用可能です。

制度内容
高額療養費制度月々の医療費の自己負担に上限を設定
医療費控除年間の医療費が一定額を超えた場合に所得税を軽減

以上

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