日本脳炎 – 感染症

日本脳炎(Japanese encephalitis)とは、日本脳炎ウイルス(JEV)を原因とする急性の中枢神経系感染症で、主な感染経路は、コガタアカイエカなどの蚊を媒介したものです。

感染すると、高熱、頭痛、嘔吐、意識障害などの症状が現れる可能性があり、 重症化すると脳炎を発症し、死亡や後遺症のリスクが高まることが知られています。

日本脳炎は、アジアの多くの国々で流行しており、特に農村部における発生率が高いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

日本脳炎の種類(病型)

日本脳炎には、不顕性感染から重篤な脳炎まで、5つの主要な病型があります。

不顕性感染

不顕性感染は、日本脳炎ウイルスに感染しても無症状のままの状態で、感染者の多くは不顕性感染に留まり、自覚症状を呈することはありません。

病型症状
不顕性感染無症状
非特異的症状発熱、頭痛、嘔吐など

非特異的症状

非特異的症状とは、発熱、頭痛、嘔吐などの一般的な症状を示す病型です。 これらの症状は日本脳炎に特異的ではなく、他の多くの感染症でも見られます。

無菌性髄膜炎

無菌性髄膜炎は、髄膜の炎症を起こすものの、脳実質には影響を及ぼさない病型です。 発熱、頭痛、項部硬直などの症状を呈しますが、意識障害は伴いません。

  • -髄液検査で細胞数増加を認める
  • -ウイルス分離や抗体検査で診断
  • -予後は良好であることが多い

脳炎

脳炎は、日本脳炎の最も重篤な病型であり、意識障害、けいれん、麻痺などの神経症状を引き起こし、治療を行わない場合、死亡や後遺症に至る可能性があります。

病型症状
脳炎意識障害、けいれん、麻痺など
脳炎後遺症運動障害、知的障害、精神症状など

脳炎後遺症

脳炎を発症した患者さんの一部に残存する神経学的障害です。 運動障害、知的障害、精神症状などが含まれ、患者のQOLを大きく低下させる可能性があります。

日本脳炎の主な症状

日本脳炎は主に蚊によって感染が広がり、感染しても多くの人は無症状ですが、一部の人は重い症状が出ることがあります。

初期症状

日本脳炎に感染すると、潜伏期間を経た後、発熱、頭痛、嘔吐などの症状が現れますが、これらの症状は他の感染症でもよく見られるため、日本脳炎だと診断するのが難しいことがあります。

症状詳細
発熱38℃以上の高熱が続く
頭痛激しい頭痛が特徴的
嘔吐吐き気を伴うこともある

中枢神経系の症状

日本脳炎が進行すると、中枢神経系に炎症が起こり、さらに重い症状が現れます。

  • 意識障害
  • 痙攣
  • 麻痺
  • 言語障害
症状詳細
意識障害昏睡状態になることもある
痙攣全身または部分的な痙攣が起こる

後遺症

日本脳炎から回復した場合でも、後遺症が残ることがあります。

後遺症詳細
知的障害記憶力や判断力の低下が見られる
運動障害麻痺や不随意運動が残ることもある

日本脳炎の原因・感染経路

日本脳炎は、日本脳炎ウイルスによって引き起こされ、主な感染経路は、コガタアカイエカなどの蚊によるウイルスの媒介です。

日本脳炎ウイルスの特徴

日本脳炎ウイルスは、フラビウイルス属に分類されるウイルスの一種です。

このウイルスは、直径約50ナノメートルの小さな球形をしており、表面には多数のスパイク状の突起が存在します。

ウイルス属代表的なウイルス
フラビウイルス属日本脳炎ウイルス
フラビウイルス属デングウイルス
フラビウイルス属ウエストナイルウイルス

日本脳炎ウイルスは、感染力が非常に強く、ヒトへの感染を引き起こすことが知られて、ブタやトリなどの動物を自然宿主とします。

日本脳炎ウイルスの感染経路

日本脳炎ウイルスは、主に蚊によって媒介されます。

感染したブタやトリなどの動物の血液を吸血した蚊が、ウイルスを保有するようになり、その後、ヒトを吸血することで、ウイルスがヒトへと感染します。

日本脳炎ウイルスの感染サイクル

  • – ブタやトリなどの動物がウイルスに感染する
  • – 蚊がそれらの動物から吸血し、ウイルスを獲得する
  • – ウイルスを保有した蚊がヒトを吸血することで、ヒトへ感染が広がる
感染源媒介動物ヒトへの感染経路
ブタ、トリなどコガタアカイエカなどの蚊蚊の吸血

日本脳炎ウイルスの感染リスク

日本脳炎ウイルスへの感染リスクは、以下のような要因によって高まります。

  • ウイルスが流行している地域への訪問や滞在
  • 蚊の多い環境での活動
  • 感染した動物との接触

特に、日本脳炎ウイルスが流行している地域では、蚊に刺される機会が増えるため、感染リスクが高いです。

診察(検査)と診断

日本脳炎の診断は、臨床症状と各種検査の結果から総合的に判断します。

日本脳炎であることを確実に診断するためには、血液や髄液から直接ウイルスを検出したり、抗体価の上昇を確認したりする検査が必要です。

日本脳炎の診察

日本脳炎が疑われる患者さんに対しては、まず詳細な問診と身体診察が行われます。

発熱、頭痛、意識障害などの症状がみられたときは、日本脳炎を含む中枢神経系感染症の可能性を考える必要があります。

問診項目身体診察項目
発症時期と経過バイタルサイン
海外渡航歴意識レベル
予防接種歴項部硬直
蚊に刺された記憶神経学的所見

日本脳炎の検査

日本脳炎が疑われる患者さんに実施される検査

  • -血液検査:白血球数とCRP値の上昇を調べます。
  • -髄液検査:細胞数の増加、蛋白の増加、糖の減少を調べます。
  • -画像検査:頭部CT・MRIで脳実質の異常を調べます。
検査項目目的
血液一般検査炎症反応の有無を確認
生化学検査肝機能・腎機能を評価
髄液検査髄膜炎の有無を確認
ウイルス学的検査原因ウイルスを特定

日本脳炎の臨床診断

日本脳炎の臨床診断の基準

  1. 急性発症の脳炎症状がある
  2. 髄液検査で細胞数の増加、蛋白の増加、糖の減少がみられる
  3. 血清学的検査でIgM抗体価の上昇がある

これらの条件を満たした場合に、日本脳炎であると臨床診断されます。

日本脳炎の確定診断

日本脳炎の確定診断の方法

  • -血清学的診断:ペア血清で抗体価の有意な上昇を確認する。
  • -ウイルス学的診断:血液や髄液からウイルスを分離・同定する。
  • -病理学的診断:脳生検や剖検で特異的な所見を確認する。

確定診断を下すためには、ウイルスの分離や抗体価の測定が重要な役割を果たします。

日本脳炎の治療法と処方薬、治療期間

日本脳炎という感染症の治療は、主に対症療法が中心 で、重症の場合は集中治療室での管理が必要となります。

抗ウイルス薬や免疫グロブリン製剤の投与が行われることもありますが、効果は限定的です。

抗ウイルス薬の使用について

抗ウイルス薬としては、インターフェロンやリバビリンなどが使用される場合があり、これらの薬剤は、ウイルスの増殖を抑制する効果が期待されます。

しかし、日本脳炎に対する有効性は十分に確立されておらず、使用は限定的で、副作用にも注意が必要です。

薬剤名投与方法主な副作用
インターフェロン筋肉内注射発熱、倦怠感
リバビリン経口投与貧血、頭痛

免疫グロブリン製剤の使用について

免疫グロブリン製剤は、日本脳炎ウイルスに対する中和抗体を含有しており、重症例では、免疫グロブリン製剤の投与が行われる可能性があります。

ただし、抗ウイルス薬同様、効果は限定的であり、副作用にも注意が必要です。

対症療法について

日本脳炎の治療の中心は、対症療法です。

  • 抗痙攣薬の投与(けいれん発作のコントロール)
  • 呼吸管理(人工呼吸器の使用など)
  • 輸液・栄養管理
  • 脳圧のコントロール

これらの治療により、合併症を予防し、症状の改善を図ります。

治療内容目的
抗痙攣薬けいれん発作の予防・治療
呼吸管理呼吸機能の維持
輸液・栄養管理脱水・栄養状態の改善
脳圧のコントロール脳浮腫の予防・治療

治療期間について

日本脳炎の治療期間は、 軽症では数日から数週間程度で回復することが多い一方、重症の場合は数週間から数ヶ月にわたる入院治療が必要になります。

後遺症が残ることもあり、長期的なリハビリテーションが必要になることも。

予後と再発可能性および予防

日本脳炎の治療後の予後を良好にするには、早期の発見と治療の開始が重要なポイントです。

再発の可能性は低いとされていますが、後遺症に悩まされることもあるため、治療後の継続的な経過観察が求められます。

早期発見と治療介入の重要性

神経学的な症状が現れてから治療が始まるまでの時間が、日本脳炎の予後に大きな影響を与え、症状出現から治療開始までの時間が長引くほど、後遺症が残るリスクが高くなります。

発症から治療開始までの時間予後への影響
24時間以内良好な予後が期待できる
48時間以上後遺症のリスクが高まる

再発のリスクと継続的なフォローアップの必要性

一般的に、日本脳炎に一度罹患すると生涯にわたって免疫を獲得するため、再発するリスクは低いと考えらますが、治療を終えた後も、後遺症に苦しむ患者さんが一定数いるのが実情です。

  • 運動障害
  • 認知機能障害
  • てんかん発作

こうした後遺症を抱えながら日常生活を送っていくためには、医療機関が定期的に経過を観察し、適切なサポートを提供し続けることが不可欠です。

ワクチン接種による予防の重要性

日本脳炎の予防において、最も有効な手段はワクチン接種です。 流行地域に渡航する予定がある方は、事前のワクチン接種が強く推奨されています。

対象者接種スケジュール
流行地域の在住者定期接種(生後6ヶ月から)
流行地域への渡航者渡航前の任意接種

ただし、ワクチン接種により高い予防効果が期待できますが、完全に発症を防げるわけではありません。

流行地域ではワクチン接種に加えて、蚊に刺されないための対策も同時に行ってください。

日本脳炎の治療における副作用やリスク

日本脳炎の治療では、抗ウイルス薬や対症療法が用いられますが、これらの治療法には副作用やリスクが伴います。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑制するために使用されます。

しかし、これらの薬剤は健康な細胞にも影響を与えることがあり、副作用が報告されています。

副作用症状
消化器症状悪心、嘔吐、下痢
肝機能障害肝酵素値の上昇

対症療法のリスク

対症療法は、日本脳炎による症状を緩和するために行われ、例えば、けいれん発作に対する抗てんかん薬の使用や、呼吸困難に対する人工呼吸器の使用などが含まれます。

これらの治療法は、患者の状態を安定させるために欠かせませんが、以下のようなリスクも伴います。

  • – 抗てんかん薬の長期使用による認知機能の低下
  • – 人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生

免疫抑制療法の副作用

重症の日本脳炎患者に対しては、免疫抑制療法が行われるケースがあり、過剰な免疫反応を抑制することで脳の炎症を抑えることを目的としています。

免疫抑制療法の副作用

副作用リスク
感染症日和見感染症の発生
血液障害白血球減少、貧血

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

日本脳炎の治療費は、症状の重さや治療の期間によってかなり差があります。

初期治療費

日本脳炎の初期治療には、抗ウイルス薬や対症療法が用いられます。

治療内容費用
抗ウイルス薬10万円~30万円
対症療法5万円~20万円

入院治療費

重症の患者さんは、集中治療室(ICU)での管理が必要となることがあります。

入院期間費用
2週間140万円~280万円
1ヶ月280万円~560万円

後遺症治療費

日本脳炎の後遺症は、運動障害、知的障害、てんかんなどです。

これらの後遺症に対するリハビリテーションや治療費は、長期間にわたって必要で、年間100万円~500万円程度の費用がかかることもあります。

公的支援制度

日本脳炎の治療費は高額になりますが、公的支援制度があります。

  • – 高額療養費制度:月々の医療費の自己負担額に上限が設定されます。
  • – 障害者総合支援法:重度の後遺症がある場合、医療費助成や障害福祉サービスが利用できます。

以上

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