日本紅斑熱 – 感染症

日本紅斑熱(Japanese spotted fever)とは、リケッチア属に分類される細菌の一種であるリケッチア・ジャポニカによって起こる感染症です。

リケッチア・ジャポニカを保有するマダニに刺されることで感染し、高熱、頭痛、発疹などの症状が現れます。

国内では西日本を中心に患者の報告があり、年間数十例から百数十例の発生が確認されています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

日本紅斑熱の種類(病型)

日本紅斑熱は、病型によって症状や重症度が異なり、典型例と非典型例の2つに分類できます。

典型例

典型例とは、定型的な経過を辿る古典的な日本紅斑熱のことです。

典型例の特徴的な症状

症状概要
発熱高熱が数日間続くことがある
皮疹手のひらや足の裏を含む全身に赤い発疹が出現することがある
刺し口ダニに咬まれた部位にかさぶたを伴う潰瘍ができることがある

典型例のケースでは、早期に治療を開始すれば、比較的良好な経過をたどることが多いですが、診断が遅れたり、治療が不十分だったりすると、重症化するリスクがあります。

非典型例

非典型例は、重症化した病型であり、死亡率も高いです。非典型例は、さらに2つのタイプに分けられます。

  1. 播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴う重症型
  2. ショック・多臓器不全を伴う重症型

これらの重症型では、早期の診断と集中治療が欠かせません。対応がなされないと、予後が悪化する可能性が高くなります。

播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴う重症型

播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併した重症型の日本紅斑熱は、死亡率が高く、速やかな対応が求められます。

DICは、全身の血液凝固系が異常に活性化され、細かな血管内に血栓が多発する病態です。

  • 出血傾向(皮下出血、歯ぐきからの出血、血尿など)
  • 意識障害
  • ショック症状

ショック・多臓器不全を伴う重症型

ショックや多臓器不全を伴う重症型の日本紅斑熱も、予後が悪いことがあります。

ショックは、感染によって引き起こされる全身性の炎症反応により、血圧が低下し、重要な臓器への血流が悪化する状態です。

多臓器不全は、ショックなどの影響で複数の臓器が同時に機能不全に陥ることを指します。

合併症概要
ショック血圧が低下し、重要な臓器への血流が悪化すること
多臓器不全複数の臓器が同時に機能不全に陥ること

日本紅斑熱の主な症状

日本紅斑熱の症状は発熱、皮膚症状、全身症状など多岐に渡ります。

発熱

日本紅斑熱の初期症状の一つは、突如現れる39度を超える高熱です。

発熱は感染後2日から10日ほどで起こり、数日から1週間程度持続し、 発熱と同時期に頭痛や筋肉痛などの全身症状も現れることがあります。

症状期間
高熱(39度以上)数日から1週間程度
頭痛・筋肉痛発熱と同時期

皮膚症状

発熱の後、多数の直径1~5mmの小さな紅斑が現れ、手掌や足底、顔面、体幹部などに広がります。

発疹は感染後3日から7日ほどで出現し、時間が経過するにつれて悪化します。また、発疹が出血性の変化を伴うこともあり、これは重症化の兆候の一つです。

発疹の特徴説明
分布手掌、足底、顔面、体幹部など
大きさ径1~5mmの小紅斑
色調紅色~暗紅色
経過時間とともに増悪、出血性変化を伴うことも

全身症状

日本紅斑熱では、発熱や皮膚症状だけでなく、全身症状が現れる可能性があります。

  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • リンパ節腫脹
  • 肝機能障害
  • 血小板減少

これらの症状は感染後の免疫反応や臓器障害を反映していると考えられ、特に肝機能障害や血小板減少は重症化の指標です。

重症化のリスク

日本紅斑熱は治療を施さないと、重症化するリスクがあります。 特に高齢者や免疫力の低下した人は重症化しやすいです。

重症化した際の合併症

  1. 脳炎
  2. 肺炎
  3. 敗血症
  4. 多臓器不全

日本紅斑熱の原因・感染経路

日本紅斑熱の主な感染経路は、Rickettsia japonicaを保有しているマダニに刺されることです。

日本紅斑熱の原因

日本紅斑熱の原因は、リケッチア属に分類される細菌の一種、Rickettsia japonicaです。

リケッチア属Rickettsia japonica
宿主マダニ
感染経路マダニ刺咬

日本紅斑熱は、1984年に徳島県で初めて確認された比較的新しい感染症で、近年では西日本を中心に報告例が増加傾向にあります。

特に、春から秋にかけてのマダニ活動期には感染リスクが高いです。

日本紅斑熱の主な感染経路

日本紅斑熱の感染経路は、Rickettsia japonicaを保有しているマダニに刺されることです。

マダニは、野山や藪などの環境に生息しており、人がそのような場所に立ち入った際にマダニに刺される可能性があります。

  • 野山や藪などの環境に生息するマダニ
  • マダニに刺される
  • 刺された部位からRickettsia japonicaが侵入

日本紅斑熱を媒介するマダニは、主にフタトゲチマダニやヤマトマダニといった種類です。

これらのマダニは、野生動物を吸血源としていますが、人間が偶発的に刺されることもあります。

一度マダニが感染すると、マダニの体内でRickettsia japonicaが増殖し、次の吸血の際に新たな宿主に感染を広げていきます。

こうした感染サイクルにより、日本紅斑熱は自然界で維持されるのです。

感染リスクを高める要因

日本紅斑熱の感染リスクを高める要因

要因詳細
野外活動キャンプやハイキングなどの野外活動でマダニの生息地に立ち入ること
不適切な服装肌の露出が多い服装で野外活動を行うこと
マダニ対策の不足虫除けスプレーの未使用やマダニチェックが不十分であること

特に、春から秋にかけてのアウトドアレジャーでは、十分な対策を講じることが重要です。

ただし、最近、都市部の公園や緑地でもマダニの生息が確認されており、必ずしも山間部に行かなくても感染する可能性があります。

診察(検査)と診断

日本紅斑熱の診断では、臨床症状と検査結果を組み合わせ、確定診断のためには、特異的な検査を行います。

臨床症状による診断

日本紅斑熱の臨床症状としては、発熱、皮疹、刺し口が重要な所見です。

症状特徴
発熱38℃以上の高熱が持続
皮疹手掌、足底、四肢に出現

血液検査による診断

血液検査確認する項目

  • 白血球数の増加
  • 血小板数の減少
  • 肝機能障害
  • 腎機能障害

これらの所見が認められた際には、日本紅斑熱である可能性が高くなります。

特異的検査による確定診断

日本紅斑熱の確定診断には、特異的な検査が必要です。

  • PCR法によるリケッチアDNAの検出
  • 血清学的検査(間接蛍光抗体法、ELISA法)
検査方法検体
PCR法全血、皮膚生検
血清学的検査血清

PCR法は感度が高く、早期診断に有用で、 血清学的検査では、ペア血清で抗体価の上昇を確認します。

診察と検査の流れ

日本紅斑熱が疑われる場合の診察と検査の流れは以下の通りです。

  1. 問診と身体所見から日本紅斑熱を疑う
  2. 血液検査で白血球数、血小板数、肝機能、腎機能を確認する
  3. 特異的検査(PCR法、血清学的検査)を行い、確定診断する

臨床症状と検査結果を総合的に判断し、日本紅斑熱の診断を行います。

日本紅斑熱の治療法と処方薬、治療期間

日本紅斑熱の治療は、主に抗菌薬を投与することです。

治療に用いられる抗菌薬

日本紅斑熱の治療に用いられる抗菌薬は、テトラサイクリン系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬です。

テトラサイクリン系ではミノサイクリンやドキシサイクリンが、ニューキノロン系ではシプロフロキサシンやレボフロキサシンが代表的な薬剤として処方されます。

抗菌薬の種類代表的な薬剤名
テトラサイクリン系ミノサイクリン、ドキシサイクリン
ニューキノロン系シプロフロキサシン、レボフロキサシン

抗菌薬は、日本紅斑熱の原因となるリケッチア属細菌の増殖を抑え、感染症の治癒を促進する働きを持っています。

治療期間

日本紅斑熱の治療期間は、7日から14日間程度です。 ただし、患者さんの症状や検査結果によって、医師が治療期間を判断します。

重症例や合併症のある患者さんの場合、より長期の治療が必要になることもあります。

治療の注意点

日本紅斑熱の治療を行う際は、以下の点に注意が必要です。

  • 医師の指示なく抗菌薬の服用を中止しないこと
  • 定期的に検査を受け、治療の効果を確認すること
  • 合併症の有無をチェックし、適切な対処を行うこと

抗菌薬の服用を途中で中断すると、病原体が再び増殖し、症状が悪化するおそれがあります。

治療後のフォローアップ

日本紅斑熱の治療後は、再発や合併症の有無を確認するために、一定期間のフォローアップが必要です。

  • 治療終了後1〜2週間後に受診し、症状の改善や副作用の有無を確認する
  • 必要に応じて血液検査や画像検査を行い、治癒状態を評価する
  • 再発や合併症の兆候がないか注意深く観察する
フォローアップ時期主な目的
治療終了1〜2週間後症状改善の確認、副作用チェック
治療終了1ヶ月後治癒状態の評価、再発・合併症の有無確認

予後と再発可能性および予防

日本紅斑熱は早期に治療を行うことで、予後は良好とされています。 再発のリスクは低いものの、感染予防が大切です。

治療と予後

日本紅斑熱の治療はテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。 早期に治療を開始することで、予後は良好です。

治療開始時期予後
発症から3日以内ほとんどの症例で速やかに改善
発症から7日以上重症化のリスクが高まる

治療により、多くの患者さんは後遺症なく回復しますが、治療が遅れた場合は重症化し、死亡する可能性もあります。

再発の可能性

日本紅斑熱の再発はまれで、感染が制御されれば、再発する可能性は低いです。

再発の頻度割合
初回感染後の再発1%未満
再発後の再々発報告なし

ただし、免疫力が低下している患者さんでは再発のリスクが高くなる可能性があります。

感染予防の重要性

日本紅斑熱の予防には、マダニに刺されないことが大切です。

有効な予防策

  • 山林や草むらに入る際は、長袖長ズボンを着用する
  • 肌の露出部にマダニ忌避剤を塗布する
  • 帰宅後は入浴し、マダニの付着がないか確認する

マダニに刺された際には、速やかに医療機関を受診することが重要で、早期発見・早期治療が予後を左右します。

日本紅斑熱の治療における副作用やリスク

日本紅斑熱の治療には抗菌薬が用いられますが、副作用のリスクが伴います。

抗菌薬治療の副作用

日本紅斑熱の治療に使用される主な抗菌薬であるテトラサイクリン系やニューキノロン系には、消化器症状や光線過敏症などの副作用が報告されています。

特に、妊婦や小児への投与には注意が必要です。

抗菌薬主な副作用
テトラサイクリン系消化器症状、光線過敏症、歯の着色
ニューキノロン系消化器症状、中枢神経症状、腱障害

アレルギー反応のリスク

抗菌薬に対するアレルギー反応も、重大な副作用の一つです。

  • 発疹や蕁麻疹
  • 呼吸困難
  • 血圧低下
  • ショック症状

アレルギー反応は、初回投与時だけでなく、継続投与中に突然現れることもあるため、治療期間中は常に注意が必要です。

抗菌薬耐性菌の出現リスク

抗菌薬の不適切な使用は、耐性菌の出現につながる危険性があります。

抗菌薬の不適切な使用耐性菌出現のリスク
必要のない抗菌薬の処方高い
用量や投与期間の不遵守高い

抗菌薬は必要な場合にのみ処方し、指示された用法・用量を守ることが大切です。

免疫抑制患者への影響

日本紅斑熱の患者さんが、何らかの原因で免疫抑制状態にある場合、抗菌薬治療の効果が十分に得られないことがあります。

また、免疫抑制剤の使用により、副作用のリスクが高まる可能性もあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

日本紅斑熱の治療費用は、初診料、再診料、検査費、処置費、入院費など多岐にわたります。

初診料と再診料

初診料は、初めて医療機関を受診した際に発生する費用で、再診料は2回目以降の受診時に発生します。 初診料は2,820円、再診料は720円が目安です。

検査費と処置費

日本紅斑熱の診断には血液検査が必要で、また、症状に応じて投薬や点滴などの処置も行われます。

検査項目費用目安
血液検査数千円~1万円
画像検査数万円~10万円

入院費

重症化した場合は入院治療が必要です。

入院期間費用目安
2週間30万円~50万円
1ヶ月60万円~100万円

以上

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