麻疹(はしか)(measles)とは、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の発疹性疾患で、空気感染や飛沫感染によって人から人へと容易に伝播します。
感染すると高熱、咳、鼻水、結膜炎などの呼吸器症状に加え、全身に特徴的な赤い発疹が広がります。
さらに、中耳炎、肺炎、脳炎などの合併症を引き起こすこともあり、特に免疫力の低下した乳幼児や高齢者では重症化のリスクが高くなることも。
麻疹は、ワクチンによる予防が可能な疾患ですが、近年では予防接種率の低下によって先進国でも流行が見られるようになっています。
麻疹の種類(病型)
麻疹は、定型麻疹、非定型麻疹、修飾麻疹、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の4つの病型に分類されます。
定型麻疹
定型麻疹は、麻疹の最も一般的な病型です。
潜伏期間は約10日間で、その後、発熱、咳、鼻水、結膜炎などの症状が現れ、発疹は、耳の後ろから始まり、顔面、体幹、四肢へと広がっていきます。
病日 | 症状 |
1-3日目 | 発熱、咳、鼻水、結膜炎 |
4-7日目 | 発疹の出現と拡大 |
非定型麻疹
非定型麻疹は、麻疹ワクチンを接種した人に見られる病型です。
定型麻疹と比較すると、症状は軽く、発疹の分布も異なり、体幹から始まり、四肢に広がります。
また、肺炎を合併する可能性もあります。
修飾麻疹
修飾麻疹は、母親から受け取った抗体の影響により、乳児期に発症する麻疹で、症状は定型麻疹に似ていますが、より軽症です。
- 発熱は軽度で短期間
- 発疹の範囲は限定的
- 合併症のリスクは低い
修飾麻疹の特徴 |
乳児期に発症 |
母親からの抗体の影響 |
定型麻疹より軽症 |
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、麻疹ウイルスによるまれな合併症です。
麻疹感染後、数年から数十年を経て発症することがあり、SSPEは、脳の炎症と変性を引き起こし、進行性の神経症状を呈します。
症状は、性格変化、知的能力の低下、ミオクローヌスなどが含まれます。
SSPEは非常に予後不良な病態であり、現在のところ、有効な治療法はありません。
麻疹の予防接種は、SSPEの発症を防ぐうえでも非常に重要です。
麻疹の主な症状
麻疹は、発熱や発疹などの特徴的な症状を引き起こす感染症です。
初期症状
麻疹の初期症状は、発熱、咳、鼻水、結膜炎などです。 発熱は38度以上の高熱となることが多く、咳や鼻水も次第に悪化していきます。
特に、咳は夜間に激しくなることが多いため、睡眠が妨げられる場合も。
また、麻疹ウイルスが目の粘膜に感染することで結膜炎が起こり、目の痛みや異物感、羞明などの症状が現れ、重症化すると視力低下を引き起こすこともあります。
麻疹の初期症状は、風邪と似ているため、見逃されやすいので注意が必要です。
特徴的な症状
麻疹に特徴的な症状
- コプリック斑
- 発疹
- 高熱
- 咳
- 鼻水
- 結膜炎
症状 | 詳細 |
コプリック斑 | 口腔内の粘膜に現れる白い斑点 |
発疹 | 全身に広がる赤い発疹 |
コプリック斑は、麻疹の特徴的な症状の一つで、口腔内の粘膜に現れる白い斑点です。
コプリック斑は、発疹が出現する1〜2日前に現れることが多く、麻疹の診断に重要な所見となります。
麻疹の発疹は、頭部や顔面から始まり、徐々に体幹や四肢へと広がっていき、発疹は、赤く盛り上がった丘疹が融合して広がっていくことが特徴です。
また、麻疹の発疹は、色素沈着を残すことがあります。 色素沈着は、発疹が消退した後に、皮膚が褐色に変色する現象です。
色素沈着は数週間から数ヶ月続くことがありますが、徐々に薄くなり、最終的には消失します。
合併症
麻疹は、合併症を引き起こす可能性があります。
- 肺炎
- 中耳炎
- 脳炎
合併症 | 頻度 |
肺炎 | 10-20% |
中耳炎 | 5-15% |
脳炎 | 0.1%以下 |
これらの合併症は、重症化すると生命に関わる危険性もあるため、注意が必要で、特に、肺炎は麻疹の主な死亡原因となっており、早期発見と治療が大切です。
麻疹による肺炎は、ウイルス性肺炎と細菌性肺炎の両方を引き起こすことがあります。
ウイルス性肺炎は、麻疹ウイルスが直接肺に感染することで起こり、 細菌性肺炎は、麻疹による免疫力の低下により、肺炎球菌などの細菌が肺に感染することで起こります。
中耳炎は、麻疹ウイルスが中耳に感染することで起こり、耳痛や難聴などの症状を引き起こし、重症化すると中耳の骨が破壊されることも。
脳炎は、麻疹ウイルスが脳に感染することで起こり、意識障害や痙攣、麻痺などの重篤な症状を引き起こし、後遺症を残すこともあります。
麻疹の原因・感染経路
麻疹は、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症で、感染力が非常に強いことが特徴です。
空気感染や飛沫感染によって容易に拡大します。
麻疹ウイルスが感染の原因
麻疹の原因となるのは、パラミクソウイルス科に属する麻疹ウイルスです。
このウイルスは、感染者の咳やくしゃみ、会話などの際に放出される飛沫に含まれており、これらを介して他者へと伝播します。
麻疹ウイルスは、空気中で長時間生存することが可能で、感染力が極めて高いウイルスの一つです。
ウイルス名 | 科名 |
麻疹ウイルス | パラミクソウイルス科 |
ムンプスウイルス | パラミクソウイルス科 |
空気感染と飛沫感染が主な感染経路
麻疹ウイルスの主な感染経路は
- 空気感染:感染者の咳やくしゃみなどで放出されたウイルスを含む飛沫が、空気中を漂い、他者が吸入することで感染が成立します。麻疹ウイルスは空気中で長時間生存可能なため、感染者がいた場所に後から入室した人も感染するリスクがあります。
- 飛沫感染:感染者との近距離での会話や、咳やくしゃみの飛沫を直接浴びることによって感染します。麻疹ウイルスを含む飛沫は、感染者から約1〜2メートルの範囲に拡散すると言われています。
感染経路 | 概要 |
空気感染 | 空気中を漂うウイルスの吸入により感染 |
飛沫感染 | 飛沫の直接的な接触により感染 |
感染力が非常に高いウイルス
麻疹ウイルスは、感染力が非常に高いことが特徴です。 麻疹患者と同じ空間にいるだけで、90%以上の確率で感染します。
また、発症前の潜伏期間から発症後の回復期初期までの期間は、感染力が特に高いです。
このため、感染拡大を防ぐためには、早期の患者隔離と接触者の把握が欠かせません。
診察(検査)と診断
麻疹は感染力が非常に強く、重症化のリスクもある感染症で、早期に対応を行うためには、診察と診断が不可欠です。
麻疹の診察方法
麻疹の診察では、特徴的な症状の有無を確認することが重要です。
症状 | 確認ポイント |
発熱 | 高熱(38℃以上)が3〜4日続く |
上気道炎症状 | 咳、鼻水、結膜炎など |
口腔内の変化 | コプリック斑の有無 |
臨床診断の進め方
臨床診断では、特徴的な症状の組み合わせから麻疹を疑います。
- 高熱と上気道炎症状
- 発熱後に出現する特徴的な発疹
- コプリック斑の存在
これらの所見から総合的に判断することが求められます。
確定診断に用いる検査
臨床診断に加えて、以下の検査を行うことで確定診断が可能です。
検査方法 | 検査材料 |
血清学的検査(IgM抗体の測定) | 急性期と回復期のペア血清 |
ウイルス分離・同定 | 咽頭ぬぐい液、尿など |
遺伝子検査(RT-PCR法) | 咽頭ぬぐい液、尿など |
麻疹の治療法と処方薬、治療期間
麻疹の治療は主に対症療法が中心となり、発熱や発疹などの症状に対して解熱鎮痛剤や抗ヒスタミン薬などを投与し、患者さんの不快感をやわらげることを目的とします。
麻疹ウイルスに直接作用する抗ウイルス薬の使用も検討される場合があり、重症例や合併症リスクの高い患者さんにはリバビリンなどの抗ウイルス薬が投与されることがありますが、効果は限定的で使用には慎重な判断が必要です。
安静と水分補給の重要性
麻疹治療で安静と十分な水分補給は非常に大切です。 発熱や発疹による体力消耗を最小限に抑え、体内の水分バランスを維持することが回復への鍵となります。
項目 | 内容 |
安静 | ベッド上での安静を指示 |
水分補給 | 定期的な水分摂取を促す |
環境整備 | 適切な室内温度・湿度の維持 |
合併症への対応と治療
麻疹では肺炎や中耳炎、脳炎などさまざまな合併症が発生する可能性があり、これらの合併症は時に重篤な状態を引き起こし治療を困難にします。
肺炎を合併した場合は抗菌薬の投与や酸素療法などが行われ、中耳炎の場合は鼓膜切開や抗菌薬の投与が必要です。
脳炎や脳症が疑われる場合はステロイド剤や抗ウイルス薬の使用が検討されます。
- 肺炎:抗菌薬の投与、酸素療法
- 中耳炎:鼓膜切開、抗菌薬の投与
- 脳炎・脳症:ステロイド剤、抗ウイルス薬
治療期間
麻疹では通常、発疹出現後7〜10日程度で症状は軽快に向かいますが、合併症を伴う場合や高齢者、免疫不全状態の患者では治療期間が長期化することがあります。
入院加療を要する場合もあり、患者さんの全身状態を評価しながら治療環境を整えることが必要です。
患者の状態 | 治療期間 |
合併症なし | 7〜10日 |
合併症あり | 2週間以上 |
麻疹の予後は一般的に良好で、適切な治療を行えば後遺症なく回復することが多いとされていますが、合併症の発生や重症化のリスクには十分な注意が必要です。
予後と再発可能性および予防
麻疹の治療予後は全般的に良好で、再発のリスクは低いですが、予防接種が非常に大切です。
麻疹の治療予後
麻疹は適切な治療を受けることで、大部分のケースで合併症なく治癒します。
入院治療が必要になることもありますが、ほとんどの方は自宅安静と対症療法で回復します。
治療場所 | 割合 |
自宅 | 90% |
入院 | 10% |
再発の可能性
麻疹は一度かかると、一生涯免疫を獲得するため、同じタイプの麻疹ウイルスに再感染することはほとんどありません。
これは、麻疹ウイルスに対する強力な免疫記憶が形成されるためです。
再発リスク | 割合 |
極めて低い | 99% |
まれに再感染の報告あり | 1% |
予防の重要性
麻疹の予防には、ワクチン接種が欠かせません。 麻疹ワクチンは非常に高い効果があり、接種率を高い水準に保つことが集団免疫の獲得につながります。
麻疹ワクチンは、麻疹・風疹混合(MR)ワクチンとして、定期接種スケジュールです。
1回目の接種は生後12〜15ヶ月、2回目は小学校入学前の1年間に実施されます。
接種回数 | 接種時期 |
1回目 | 生後12〜15ヶ月 |
2回目 | 小学校入学前の1年間 |
麻疹の治療における副作用やリスク
麻疹の治療では、ウイルスに直接作用する特効薬はなく、対症療法が中心となりますが、治療における副作用やリスクについて理解しておくことが大切です。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑制する効果がありますが、副作用として嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状や、頭痛、めまい、皮疹などが報告されています。
重篤な副作用としては、肝機能障害、腎機能障害、血液障害などがあり、注意が必要です。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 嘔気、嘔吐、下痢、腹痛 |
全身症状 | 頭痛、めまい、皮疹 |
重篤な副作用 | 肝機能障害、腎機能障害、血液障害 |
抗菌薬の副作用
麻疹の合併症として細菌感染症が起こる場合、抗菌薬が使用されますが、アレルギー反応や消化器症状などの副作用が報告されており、また、抗菌薬の長期使用により、耐性菌が出現するリスクもあります。
ステロイド薬の副作用
重症な麻疹の際、ステロイド薬が使用されることがありますが、副作用が報告されています。
ステロイド薬の副作用 | 内容 |
代謝への影響 | 高血糖、高血圧 |
感染症リスク | 感染症のリスク増加 |
骨への影響 | 骨粗鬆症 |
精神症状 | 不眠、興奮、不安など |
免疫グロブリン製剤の副作用
重症な麻疹では、免疫グロブリン製剤が使用されることがありますが、アレルギー反応や血栓症などの副作用が報告されています。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
初診料と再診料
麻疹の診療では、初診料が1,500円から3,000円程度、再診料が600円から1,200円程度かかります。
診療項目 | 費用目安 |
初診料 | 1,500円~3,000円 |
再診料 | 600円~1,200円 |
検査費と処置費
麻疹の診断に必要な血液検査や髄液検査などの検査費用は、数千円から数万円程度です。 また、症状に応じた処置が必要な際は、処置費が加算されます。
検査項目 | 費用目安 |
血液検査 | 3,000円~10,000円 |
髄液検査 | 10,000円~30,000円 |
入院費
重症化した際は入院治療が必要となり、入院費が発生します。 入院費は、1日あたり5,000円から15,000円程度です。
以上
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