進行性風疹全脳炎(PRP) – 感染症

進行性風疹全脳炎(PRP progressive rubella panencephalitis)とは、風疹ウイルス感染後に発症するまれな疾患です。

風疹罹患後、数年から数十年を経て中枢神経系に炎症が生じ、多彩な神経症状が現れます。

風疹に罹患した小児のうち、数万人に1人の割合でPRPを発症すると考えられています。

PRPは慢性の経過をたどり、現時点では予後不良の疾患です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

進行性風疹全脳炎の種類(病型)

進行性風疹全脳炎(PRP)は、非常にまれな晩期合併症であり、いくつかの病型に分類されます。

古典的なPRP

古典的なPRPは、先天性風疹症候群の患者さんにおいて、乳幼児期から小児期にかけて発症する病型です。

進行性の精神運動発達遅滞、てんかん発作、小頭症などの症状が見られます。

発症年齢主な症状
乳幼児期〜小児期進行性の精神運動発達遅滞、てんかん発作、小頭症

青年期発症型PRP

青年期発症型PRPは、10代後半から20代にかけて発症する病型で、行動異常、人格変化、認知機能障害などの精神症状が認められます。

発症年齢主な症状
10代後半〜20代行動異常、人格変化、認知機能障害などの精神症状

成人発症型PRP

成人発症型PRPは、30代以降に発症する病型で、緩徐進行性の認知機能障害、平衡機能障害、錐体路徴候などの症状が見られます。

成人発症型PRPの主な特徴

  • – 30代以降に発症する
  • – 緩徐進行性の経過をたどる
  • – 認知機能障害、平衡機能障害、錐体路徴候などの症状

非定型的PRP

非定型的PRPは、上記の病型に当てはまらない非典型的な臨床経過を示す病型です。

この病型では、症状や経過が多様であり、個々の患者によって大きく異なります。

進行性風疹全脳炎の主な症状

進行性風疹全脳炎は、重篤な神経症状を引き起こす疾患であり、特に小児や免疫力の低下した患者さんに深刻な影響を及ぼします。

初期症状

進行性風疹全脳炎の初期症状は非特異的であり、発熱、頭痛、倦怠感などです。

これらの症状は、風疹ウイルスに初めて感染してから数週間から数ヶ月の潜伏期間を経て現れます。

症状詳細
発熱38℃以上の高熱が数日間持続することがある
頭痛中等度から重度の頭痛を訴える

神経症状の進行

進行性風疹全脳炎が進行すると、より重篤な神経症状が現れ始めます。

  • 痙攣発作
  • 運動障害
  • 知覚障害
  • 意識障害
症状詳細
痙攣発作全身性または部分的な発作が繰り返し起こる
運動障害四肢の麻痺や不随意運動が出現する

認知機能の低下

進行性風疹全脳炎の患者さんでは、記憶力や判断力などの認知機能が徐々に低下していきます。

この症状は、脳の広範な損傷が原因です。

進行性の経過

進行性風疹全脳炎は治療介入がない場合、症状は次第に悪化し、昏睡状態に陥ることもあります。

進行性風疹全脳炎が疑われる患者さんに対しては、早期の診断と迅速な治療開始が大切です。

進行性風疹全脳炎の原因・感染経路

進行性風疹全脳炎は、風疹ウイルスが原因で、母子感染や持続感染が主な感染経路です。

風疹ウイルスが原因

進行性風疹全脳炎の原因は、風疹ウイルスです。

風疹ウイルスは、トガウイルス科に属するウイルスで、一本鎖RNAをゲノムとして持っていて、感染細胞内で増殖し、細胞から細胞へと伝播していきます。

ウイルス科ウイルス属
トガウイルス科ルビウイルス属

風疹ウイルスは、免疫力が低下した個体や胎児に感染すると、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

母子感染が主な感染経路

進行性風疹全脳炎の主な感染経路は、母子感染です。

妊娠中の女性が風疹ウイルスに感染すると、胎盤を介してウイルスが胎児に伝播することがあります。

母子感染により、胎児が風疹ウイルスに持続感染し、進行性風疹全脳炎を発症するリスクが高くなります。

感染経路感染リスク
母子感染高い
その他の経路低い

持続感染も感染経路の一つ

進行性風疹全脳炎のもう一つの感染経路は、持続感染です。

風疹ウイルスに感染した個体の一部は、ウイルスが体内に長期間とどまり、持続感染を引き起こし、免疫力が低下した際に進行性風疹全脳炎を発症することがあります。

持続感染のメカニズム

  • – ウイルスが特定の細胞に潜伏する
  • – 免疫システムがウイルスを排除できない
  • – ウイルスが再活性化し、感染が拡大する

診察(検査)と診断

進行性風疹全脳炎の診察では、病歴聴取、身体診察、神経学的検査、画像検査、脳脊髄液検査などが実施されます。

最終的な確定診断は、脳組織の生検でウイルス抗原を検出することです。

問診と身体所見

問診では、風疹の感染歴やワクチン接種歴を聞き取り、身体診察では、発熱、頭痛、意識レベルの低下などの全身症状に加えて、錐体路徴候、小脳失調などの神経学的異常を評価します。

画像検査

頭部MRIでは、大脳皮質、白質、基底核、小脳などの広い範囲で異常なシグナルが観察されることがあります。

撮像法所見
T2強調画像高信号域
FLAIR画像高信号域

頭部CTでは、MRIほど詳しい評価は難しいですが、全体的な脳萎縮が認められる場合があります。

脳脊髄液検査

脳脊髄液検査では、リンパ球を主体とした細胞数の増加とタンパク質濃度の上昇がみられます。

さらに、風疹ウイルスに対するIgG抗体価が高値を示すことが多いです。

検査項目結果
細胞数リンパ球優位に増加
タンパク質高値
風疹ウイルスIgG抗体高値

ただし、これらの所見は進行性風疹全脳炎に特有のものではないため、確定診断にはつながりません。

確定診断

進行性風疹全脳炎の確定診断のためには、次のいずれかが必要となります。

  • 脳生検でウイルス抗原を検出すること
  • 剖検脳でウイルス抗原を検出すること
  • 脳脊髄液、血清、髄液などからウイルスRNAを検出すること

脳生検は身体に負担がかかる検査ですが、現在のところ確定診断に欠かせない検査です。

生検する部位は、MRIで異常なシグナルが認められる場所から選び、病理組織学的検査では、脳実質の炎症反応、グリア細胞の増生、神経細胞の減少などがみられます。

さらに免疫染色法や電子顕微鏡を用いて、風疹ウイルス抗原を検出することも、確定診断につながります。

進行性風疹全脳炎の治療法と処方薬、治療期間

進行性風疹全脳炎(PRP)の治療は、抗ウイルス薬の投与と対症療法を中心に行われ、治療期間は患者さんの状態により異なりますが、数週間から数ヶ月に及ぶことがあります。

抗ウイルス薬療法

PRPの治療では、抗ウイルス薬の投与が不可欠です。 風疹ウイルスに効果が期待できる薬として、リバビリンやガンシクロビルなどが使われます。

これらの薬は、ウイルスの増殖を抑え、病状の進行を遅らせる働きがあり、投与方法は、患者さんの状態や薬の特性に応じて、経口または静脈内投与です。

薬剤名投与方法
リバビリン経口
ガンシクロビル静脈内

免疫グロブリン療法

PRPの治療では、免疫グロブリン療法も併用されることがあります。

免疫グロブリンは、健康な人から採取された抗体を含む血液製剤で、ウイルスに対する中和抗体を補うことで、感染の広がりを防ぐ効果も。

通常、免疫グロブリンは静脈内に投与され、投与量や頻度は、患者の状態や症状の重さに応じて調整されます。

対症療法

PRPの治療では、合併症や伴う症状に対する対症療法も大切な役割を果たします。

たとえば、けいれんが見られる場合は、抗てんかん薬の投与が必要です。

また、呼吸障害が生じた場合は、酸素療法や人工呼吸管理が行われます。 栄養状態の維持や褥瘡予防なども、患者のQOL向上に欠かせない療法です。

主な対症療法

  • 抗てんかん薬の投与
  • 酸素療法や人工呼吸管理
  • 栄養管理と褥瘡予防

治療期間と予後

PRPの治療期間は、 軽症例では数週間で改善が見られることもありますが、重症例では数ヶ月から数年に及ぶ長期的な治療が必要となることもあります。

症状治療期間
軽症数週間
中等症数ヶ月
重症数年

PRPの予後は、発症年齢や治療開始までの期間、合併症の有無などによって左右されます。

予後と再発可能性および予防

進行性風疹全脳炎の治療後の見通しは、早期発見と治療が行われれば、比較的良好です。

ただし、再発のリスクを完全に取り除くことはできないので、長期的な経過観察が欠かせません。

治療後の予後

進行性風疹全脳炎の治療後の見通しは、早期に見つかり、治療が施された場合には、多くの患者さんで症状が改善し、社会復帰できるようになります。

その一方で、発症から治療開始までに時間がかかったり、症状が重くなったりした場合は、後遺症が残ってしまう可能性が高いです。

発症からの期間予後
1ヶ月以内良好
1~3ヶ月比較的良好
3ヶ月以上後遺症のリスクが高まる

再発のリスクと長期的なフォローアップ

進行性風疹全脳炎の再発のリスクは、治療後1年以内が最も高く、その後徐々に下がっていきます。

フォローアップ期間検査の頻度
治療後1年以内3ヶ月ごと
1~3年6ヶ月ごと
3年以上1年ごと

予防接種の重要性

進行性風疹全脳炎を予防するうえで、最も効果的な方法は予防接種です。

風疹ワクチンの接種によって、風疹ウイルスへの感染を防げ発症リスクを大幅に下げられます。

  • – 定期予防接種:乳幼児期に2回接種
  • – 追加接種:妊娠を希望する女性や、風疹抗体価が低い成人

進行性風疹全脳炎における副作用やリスク

進行性風疹全脳炎の治療に用いられる抗ウイルス薬や免疫抑制剤は、患者さんの体に大きな負担をかけてしまう可能性があります。

さらに、免疫抑制剤を長期間使用することで、感染症にかかるリスクが高くなることも。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑えるために使われますが、同時に健康な細胞にも影響を与えてしまうことがあります。

抗ウイルス薬の主な副作用

副作用症状
消化器症状吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
皮膚症状発疹、かゆみ
血液障害貧血、白血球減少、血小板減少

免疫抑制剤の長期使用に伴うリスク

進行性風疹全脳炎の治療で用いられる免疫抑制剤は、過剰な免疫反応を抑え、炎症を和らげるために使用されますが、長期間使用することでいくつかのリスクがあります。

  • 感染症のリスク増大
  • 腎機能障害
  • 高血圧
  • 糖尿病
リスク説明
感染症免疫力が低下し、日和見感染のリスクが高まる
腎機能障害免疫抑制剤の長期使用により、腎臓への負担が増大する

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

進行性風疹全脳炎の治療費は、患者さんや家族にとって大変な重荷になるケースも少なくありません。

治療費の内訳

進行性風疹全脳炎の治療費は、入院費、検査費、投薬費、リハビリテーション費などで構成されています。

項目費用
入院費1日あたり約5万円
検査費1回あたり約10万円

治療費の総額

進行性風疹全脳炎の治療期間は、患者の症状や回復の度合いによって異なりますが、平均して6ヶ月から1年程度の入院治療が必要です。

治療期間総額
6ヶ月約900万円
1年約1,800万円

公的支援制度

進行性風疹全脳炎の治療費負担を軽減するために、以下のような公的支援制度が設けられています。

  • 高額療養費制度
  • 重度心身障害者医療費助成制度
  • 自立支援医療制度

以上

References

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