肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎 – 感染症

肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎(pulmonary cryptococcosis and cryptococcal meningitis)とは、クリプトコックス属の真菌(クリプトコックス・ネオフォルマンス、クリプトコックス・ガッティ)の感染によって引き起こされる深刻な疾患です。

肺クリプトコックス症はクリプトコックスの吸入により発症し、肺に感染が拡大し、クリプトコックス脳髄膜炎は血流に乗ったクリプトコックスが中枢神経系に到達し、脳や脊髄の髄膜に炎症を生じさせます。

発症リスクは、健康な人と比べて免疫力の低下している人、とりわけHIV感染者や臓器移植を受けた人などで高くなることが知られています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

目次[

肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎の種類(病型)

肺クリプトコックス症とクリプトコックス髄膜炎は、それぞれ特徴的な病型に分けられます。

肺クリプトコックス症の種類(病型)

肺クリプトコックス症には、主に3つの病型があります。

  • 結節型:肺にしこりが形成される病型で 、単発性または多発性の結節が確認されます。
  • 浸潤型:肺の一部に炎症が広がり、浸潤影が見られる病型で、肺炎のような症状が現れることもあります。
  • 播種型:肺だけでなく、他の臓器にもクリプトコックス感染が及び、重症化しやすい病型です。
病型特徴
結節型肺にしこりが形成される
浸潤型肺の一部に炎症が広がる
播種型他の臓器にも感染が及ぶ

クリプトコックス髄膜炎の種類(病型)

クリプトコックス髄膜炎は、3つの病型に分けられます。

  • 髄膜炎型:髄膜に炎症が生じる病型で、頭痛や発熱などの症状が見られます。
  • 脳実質型:脳実質にクリプトコックス感染が広がった病型です。 意識障害や神経症状が現れることがあります。
  • 脳室内肉芽腫型:脳室内に肉芽腫が形成される病型で、頭蓋内圧亢進による症状が起こる可能性があります。
病型主な症状
髄膜炎型頭痛、発熱
脳実質型意識障害、神経症状
脳室内肉芽腫型頭蓋内圧亢進による症状

病型による重症度の違い

病型により、重症度や予後に大きな影響を与え、播種型の肺クリプトコックス症や脳実質型のクリプトコックス髄膜炎では、重症化のリスクが高くなっています。

一方で、結節型の肺クリプトコックス症や髄膜炎型のクリプトコックス髄膜炎は、比較的軽症であるケースが多いです。

肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎の主な症状

肺クリプトコックス症とクリプトコックス脳髄膜炎の症状は多岐にわたります。

肺クリプトコックス症の主な症状

肺クリプトコックス症の主な症状は、咳、発熱、胸痛、呼吸困難などの呼吸器症状ですが、これらの症状は非特異的であるため、他の呼吸器疾患との鑑別が必要です。

病状が進行すると、体重減少や全身倦怠感なども現れることがあります。

症状頻度
高い
発熱高い
胸痛中程度
呼吸困難中程度

クリプトコックス脳髄膜炎の主な症状

クリプトコックス脳髄膜炎の主な症状

  • 頭痛
  • 発熱
  • 悪心・嘔吐
  • 意識障害
  • 痙攣

これらの症状は、他の中枢神経系感染症でも見られるため、的確な診断が極めて重要で、さらに、病状が進行すると、昏睡状態に陥るリスクもあります。

症状頻度
頭痛非常に高い
発熱高い
意識障害中程度

免疫抑制状態における症状の特徴

HIV感染者や臓器移植患者さんなどでは、急速に病状が進行し、早期からクリプトコックス血症を合併するケースもあります。

肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎の原因・感染経路

肺クリプトコックス症とクリプトコックス髄膜炎の感染経路は主に吸入感染であり、土壌や鳥類の糞などに生息する真菌の胞子を吸い込むことで感染が成立します。

原因真菌

肺クリプトコックス症とクリプトコックス髄膜炎の原因となる真菌は、クリプトコックス属に分類されます。

クリプトコックス属の中でも、特にクリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)とクリプトコックス・ガッティ(Cryptococcus gattii)が主な病原体です。

菌種主な生息環境
クリプトコックス・ネオフォルマンス鳩などの鳥類の糞、土壌
クリプトコックス・ガッティユーカリの木、土壌

感染経路

クリプトコックス属の真菌は、土壌や樹木、鳥類の糞などに生息しており、環境中に存在する真菌の胞子が空気中に舞い上がり、それを吸い込むことで感染が起こります。

胞子が非常に小さいため、容易に肺の奥深くまで到達するのです。

健康な人が感染しても発症することはまれですが、免疫力が低下している人では感染が広がり、肺クリプトコックス症や髄膜炎を発症することがあります。

感染リスクの高い人

免疫力が低下した人は、クリプトコックス感染のリスクが高くなります。

  • AIDS患者
  • 臓器移植を受けた患者
  • 悪性腫瘍を持つ患者
  • ステロイド薬を長期間使用している人
リスク因子理由
AIDSCD4陽性リンパ球の減少により免疫力が低下
臓器移植拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤の使用
悪性腫瘍腫瘍自体や治療による免疫力の低下
ステロイド薬の長期使用免疫抑制作用により感染リスクが上昇

診察(検査)と診断

肺クリプトコックス症とクリプトコックス脳髄膜炎の診断においては、臨床症状と検査所見を総合的に評価し、確定診断を下すには、検体からクリプトコックスを検出します。

臨床診断

肺クリプトコックス症の臨床診断

  • 咳、発熱、胸痛などの呼吸器症状
  • 胸部画像検査(胸部X線、CT)での異常陰影
  • 免疫抑制状態の有無

クリプトコックス脳髄膜炎の臨床診断

  • 頭痛、発熱、意識障害などの中枢神経症状
  • 髄液検査での圧上昇、細胞数増加、糖低下、蛋白上昇
  • 免疫抑制状態の有無
疾患主な臨床症状
肺クリプトコックス症咳、発熱、胸痛
クリプトコックス脳髄膜炎頭痛、発熱、意識障害

確定診断

肺クリプトコックス症とクリプトコックス脳髄膜炎の確定診断には、以下の検査が用いられます。

検査内容
培養検査喀痰、気管支洗浄液、髄液などからのクリプトコックスの分離・同定
病理検査生検組織でのクリプトコックスの証明
抗原検査血清、髄液中のクリプトコックス莢膜抗原の検出

培養検査は確定診断の基本であり、クリプトコックスの分離・同定が可能で、病理検査は、組織への侵襲が明らかな場合に有用です。

抗原検査は、高感度な検査法であり、スクリーニングとしても重要な役割を果たします。

画像検査

肺クリプトコックス症では、胸部X線やCTで多彩な陰影が見られ、結節影、浸潤影、空洞形成などが観察されます。

クリプトコックス脳髄膜炎では、頭部MRIで髄膜の造影効果や脳実質病変を認めることがあります。

ただし、画像所見は非特異的であるため、確定診断には直結しません。

肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎の治療法と処方薬

肺クリプトコックス症とクリプトコックス髄膜炎には抗真菌薬による治療が中心です。

肺クリプトコックス症の治療

肺クリプトコックス症の治療に利用される抗真菌薬

  • フルコナゾール(経口):軽症~中等症の肺クリプトコックス症に対して第一選択です。
  • イトラコナゾール(経口):フルコナゾールの代替薬として使用されることがあります。
  • アムホテリシンB(静注):重症例や播種型の肺クリプトコックス症に対して使用されます。
薬剤名投与経路主な適応
フルコナゾール経口軽症~中等症
イトラコナゾール経口フルコナゾールの代替
アムホテリシンB静注重症例、播種型

クリプトコックス髄膜炎の治療

クリプトコックス髄膜炎の治療は、導入療法と維持療法の2段階で行われます。

導入療法使用される抗真菌薬

  • アムホテリシンB(静注)+フルシトシン(経口):第一選択の治療薬です。
  • リポソーマルアムホテリシンB(静注)+フルシトシン(経口):アムホテリシンBの副作用が懸念される場合に使用されます。
  • フルコナゾール(経口):上記の治療が実施できないときの代替療法として使用されます。
薬剤名投与経路主な適応
アムホテリシンB+フルシトシン静注+経口第一選択
リポソーマルアムホテリシンB+フルシトシン静注+経口副作用が懸念される場合
フルコナゾール経口代替療法

導入療法後は、フルコナゾールの経口投与による維持療法が行われます。

免疫抑制状態への対応

肺クリプトコックス症やクリプトコックス髄膜炎の患者さんが免疫抑制状態にある場合は、治療期間の延長や再発予防の強化が必要で、AIDS患者さんでは、抗HIV療法を併用します。

また、臓器移植患者さんでは、免疫抑制剤の調整が必要となることも。

ステロイド薬の長期使用者では、ステロイド薬の減量・中止を検討することがあります。

治療に必要な期間と予後について

肺クリプトコックス症とクリプトコックス脳髄膜炎の治療期間と予後は、患者の免疫状態や病状の重症度によって大きく異なり、抗真菌薬治療と併存疾患の管理が予後改善のために大切です。

肺クリプトコックス症の治療期間と予後

肺クリプトコックス症の治療期間は、以下の因子によって変わってきます。

  • 免疫状態(免疫抑制の有無)
  • 病変の広がり
  • 症状の重症度
  • 合併症の有無

免疫正常者の軽症例では、フルコナゾールの内服治療を3~6ヶ月程度行うことが多いです。

一方、免疫抑制患者や重症例では、アムホテリシンBとフルシトシンの併用による導入治療後、フルコナゾールの長期内服治療(6~12ヶ月)が必要となることがあります。

免疫状態治療期間
免疫正常3~6ヶ月
免疫抑制6~12ヶ月

治療が行われれば、肺クリプトコックス症の予後は比較的良好ですが、免疫抑制患者では再発リスクが高いため、フォローアップが必要です。

クリプトコックス脳髄膜炎の治療期間と予後

クリプトコックス脳髄膜炎の治療は、より長期に及ぶことが多いです。

標準的な治療期間

治療フェーズ期間
導入治療(アムホテリシンB+フルシトシン)2週間
地固め治療(フルコナゾール高用量)8週間
維持治療(フルコナゾール低用量)6~12ヶ月

クリプトコックス脳髄膜炎の予後は、治療開始の遅れや免疫抑制の程度によって左右されます。

肺クリプトコックス症・クリプトコックス脳髄膜炎の治療における副作用やリスク

肺クリプトコックス症とクリプトコックス髄膜炎の治療に用いられる抗真菌薬には、さまざまな副作用やリスクがあります。

アムホテリシンBの副作用とリスク

アムホテリシンBは、重症例や播種型の肺クリプトコックス症、クリプトコックス髄膜炎の導入療法で使用される静注薬です。

主な副作用

副作用頻度
腎機能障害高い
電解質異常高い
発熱、悪寒中等度

フルシトシンの副作用とリスク

フルシトシンは、クリプトコックス髄膜炎の導入療法で使用される経口薬です。

主な副作用

副作用頻度
骨髄抑制中等度
肝機能障害中等度
消化器症状中等度

アゾール系抗真菌薬の副作用とリスク

フルコナゾールやイトラコナゾールなどのアゾール系抗真菌薬は、肺クリプトコックス症の治療やクリプトコックス髄膜炎の維持療法で使用される経口薬です。

主な副作用

  • 肝酵素の上昇や黄疸といった肝機能障害
  • 悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状
  • 他の薬剤との相互作用により、副作用のリスクが高まることも

免疫抑制状態と副作用リスク

肺クリプトコックス症やクリプトコックス髄膜炎の患者さんが免疫抑制状態にあると、抗真菌薬の副作用リスクが高まります。

予防方法

肺クリプトコックス症とクリプトコックス脳髄膜炎を予防するには、クリプトコックスへの曝露を避け、免疫力を維持することが大切です。

曝露予防

クリプトコックスは、鳥類(特に鳩)の糞に多く存在するので、鳥類の糞との接触を避けます。

場所対策
鳥類の糞が蓄積している場所立ち入りを避ける
鳥類の糞の清掃・除去時マスク・手袋を着用

免疫力の維持

クリプトコックス感染のリスクは、免疫力を維持することが予防対策として必要です。

免疫力低下の原因対策
HIV感染適切な治療とコントロール
免疫抑制療法適正化
栄養不良栄養状態の改善

化学的予防投与

一部の高リスク患者さんでは、抗真菌薬の予防投与が検討されます。

  • CD4陽性リンパ球数が200/μL未満のHIV患者
  • 臓器移植患者(特に肺移植患者)
  • 長期の高用量ステロイド療法を受けている患者

予防投与薬は、フルコナゾールやイトラコナゾールなどです。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

抗真菌薬の薬剤費

肺クリプトコックス症とクリプトコックス髄膜炎の治療に使用される主な抗真菌薬の薬剤費は以下の通りです。

薬剤名薬剤費(1日あたり)
フルコナゾール1,000~2,000円
イトラコナゾール1,500~3,000円
アムホテリシンB10,000~20,000円
リポソーマルアムホテリシンB30,000~50,000円
フルシトシン5,000~10,000円

入院費と検査費用

肺クリプトコックス症やクリプトコックス髄膜炎の治療には、入院が必要になることが多いです。

  • 入院費は、1日あたり数万円から10万円以上になる場合も。
  • 治療経過を評価するための各種検査費用も必要。
  • 画像検査(CT、MRIなど)は、1回あたり数万円から10万円以上かかることがある。
  • 血液検査は、1回あたり数千円から1万円程度の費用が発生。
  • 髄液検査は、1回あたり1万円程度の費用がかかる。

高額療養費制度の活用

肺クリプトコックス症やクリプトコックス髄膜炎の治療費が高額になる場合、高額療養費制度を活用できます。

所得区分自己負担限度額(月額)
住民税非課税世帯35,400円
一般所得者80,100円+(医療費-267,000円)×1%
高額所得者150,000円+(医療費-500,000円)×1%

高額療養費制度を利用することで、月額の自己負担額を一定の限度内に抑えることが可能です。

以上

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