尿道炎 – 感染症

尿道炎(urethritis)とは、尿道に炎症が起こる病気であり、排尿時の痛みや違和感、頻尿といった症状が現れます。

細菌やウイルスなどの病原体が尿道内に侵入することで発症し、多くの場合は性行為を介して感染するため、性感染症の一つとして認識されています。

尿道炎は男女ともに発症する可能性がありますが、体の構造の違いから男性のほうが罹患しやすいです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

尿道炎の種類(病型)

尿道炎は主に淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎の2つのタイプに分類されます。

淋菌性尿道炎

淋菌性尿道炎は、性行為を通じて感染する代表的な性感染症の一つです。

淋菌は尿道粘膜に感染して急性の炎症を引き起こすことが多く、症状が比較的早く現れます。

特徴説明
原因菌淋菌
感染経路主に性行為
潜伏期間2〜7日程度

非淋菌性尿道炎

非淋菌性尿道炎は、淋菌以外のさまざまな病原体によって引き起こされる尿道炎の総称です。

主な原因菌は、クラミジア・トラコマティスで、その他にもマイコプラズマ・ジェニタリウムやウレアプラズマ・ウレアリティカムなどが挙げられます。

主な原因菌特徴
クラミジア・トラコマティス最も一般的な原因菌
マイコプラズマ・ジェニタリウム難治性の原因となることがある
ウレアプラズマ・ウレアリティカム無症状感染が多い

混合感染の可能性

淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎が同時に発生する混合感染のケースもあります。

このような状況では、複数の病原体に対する治療が必要となることがあるため、正確な診断と治療法の選択が必要です。

尿道炎の主な症状

尿道炎の代表的な症状は、排尿時の痛みや違和感、頻尿、尿道からの分泌物などです。

尿道炎の一般的な症状

尿道炎の症状は、男女で若干の違いがありますが、共通する主な症状があります。

  • 排尿時の痛みや灼熱感
  • 頻尿(トイレに行く回数が増える)
  • 尿意切迫感(突然、強い尿意を感じる)
  • 尿道からの分泌物
  • 尿の濁り
  • 下腹部の不快感や痛み

症状は、感染の程度や原因となる病原体によって、軽いものから重いものまで幅広いです。

淋菌性尿道炎の症状

淋菌性尿道炎は、淋菌による感染で引き起こされ、通常、症状が急性かつ重度であることが多く、特徴的な症状が現れやすです。

症状特徴
尿道分泌物黄色や緑色の膿性分泌物が多量に出る
排尿時痛激しい痛みを伴うことが多い
発症時期感染後、数日程度で症状が現れやすい
尿道の腫れ尿道口の発赤や腫脹が顕著なことがある

淋菌性尿道炎の症状は、男性の方が顕著に現れやすく、女性の場合、症状が軽微であったり、無症状であったりするため、気づかずに進行することがあります。

非淋菌性尿道炎の症状

非淋菌性尿道炎は、さまざまな病原体によって起こり、クラミジア・トラコマティスが原因となることが多いですが、他の細菌やウイルスでも発症することがあります。

非淋菌性尿道炎の症状

症状特徴
尿道分泌物透明や白色の分泌物が少量から中等量
排尿時痛軽度から中等度の痛みを伴うことが多い
発症時期感染後、1週間から3週間程度で症状が現れやすい
症状の程度全般的に淋菌性よりも軽度であることが多い

非淋菌性尿道炎の場合、症状が軽微であったり、一時的に症状が消失したりすることもあるため、気づかずに慢性化してしまう可能性があります。

症状の個人差と注意点

尿道炎の症状は男性の方が顕著に現れやすく、女性の場合は症状が軽微であったり、他の疾患(膀胱炎や腟炎など)と症状が似ていたりすることがあります。

また、尿道炎の症状は、他の泌尿器系の病気と似ていることがあるため、医療機関を受診し、診断を受けることが重要です。

特に、以下のような場合は早急に医療機関を受診してください。

  • 高熱を伴う場合
  • 血尿が見られる場合
  • 下腹部に激しい痛みがある場合
  • 症状が2週間以上続く場合
  • 症状が急激に悪化した場合

尿道炎の原因・感染経路

尿道炎は、多種多様な病原体によって引き起こされる感染症で、感染経路も一様ではありません。

主な原因病原体

尿道炎を引き起こす主な病原体には、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などが含まれます。

主な原因病原体と特徴

病原体の種類代表的な例
細菌淋菌、クラミジア、大腸菌
ウイルスヘルペスウイルス、アデノウイルス
真菌カンジダ菌
寄生虫トリコモナス原虫

感染経路

尿道炎の感染経路は、原因となる病原体によって異なります。

  • 性行為による感染
  • 尿路を介した上行性感染
  • 周囲の感染巣からの波及
  • 医療行為に関連した感染

性行為による感染は、特に淋菌やクラミジアなどの性感染症の原因となる病原体で多く見られます。

一方、大腸菌などによる尿路感染症は、尿路を介した感染が主な経路です。

病原体別の感染メカニズム

各病原体には、独自の感染メカニズムがあります。

主な病原体の感染メカニズム

病原体主な感染メカニズム
淋菌尿道上皮細胞への付着と侵入
クラミジア細胞内での増殖
大腸菌尿路を介した上行性感染
ヘルペスウイルス神経節での潜伏感染

リスク因子

尿道炎の発症には、さまざまなリスク因子が関与しています。

  • 複数のパートナーとの性行為
  • コンドームを使用しない性行為
  • 尿路の解剖学的異常
  • 免疫機能の低下
  • 不衛生な環境

混合感染の可能性

尿道炎では、複数の病原体による混合感染が起こる可能性もあり、よく見られるのが、淋菌とクラミジアの同時感染です。

診察(検査)と診断

尿道炎の診察と診断は、症状や経過を聞くところから始まり、身体の診察、さまざまな検査を通じて、原因となる病原体を突き止め、治療法を決めます。

問診と身体診察

問診での質問事項

  • 症状の種類と程度(排尿時の痛み、分泌物が出るかどうか)
  • 症状がどのくらい続いているか
  • 性行為の経験(新しいパートナー、コンドームを使ったかどうか)
  • 過去に性感染症にかかったことがあるか
  • 薬にアレルギーがあるか

身体診察では、尿道口から分泌物が出ていないか、どんな性質の分泌物か、尿道が腫れていたり押すと痛みがないかなどを確認します。

尿検査

尿検査は尿道炎の診断において最も重要な検査の一つです。

尿検査で調べられる項目

検査項目確認内容
尿沈渣白血球の数、細菌がいるかどうか
尿培養原因となる細菌の種類と、効く薬
尿中PCR検査クラミジアや淋菌などの特定の病原体がいるかどうか

尿検査の結果は、尿道炎の診断を確定したり、原因となる病原体を特定したりするのに役立ち、特に朝一番の尿を使った検査が勧められます。

尿道分泌物の検査

尿道から分泌物が出ている場合、その検査も重要な診断方法です。

分泌物の検査で用いられる方法

  • グラム染色:分泌物の中の細菌や白血球を観察する
  • 培養検査:原因となる細菌の種類と、効く薬を調べる
  • 核酸増幅法(PCR法など):特定の病原体の遺伝子を探す

淋菌による尿道炎なのか、それ以外の原因による尿道炎なのかを見分けたり、具体的にどの病原体が原因なのかを突き止めたりできます。

血液検査

血液検査は、尿道炎そのものの診断というより、他の性感染症が一緒に起きていないか、体の全体的な状態はどうかを調べるために行われることが多いです。

主な血液検査項目

検査項目目的
血算炎症の程度や体の全体的な状態を調べる
CRP炎症反応があるかどうかを確認する
梅毒血清反応梅毒にもかかっていないかを確認する
HIV抗体HIVに感染していないかを確認する

画像診断

尿道炎の診断で画像診断が必要になることはあまり多くありませんが、以下のような場合に考えられることがあります。

  • 症状が長引いたり、ひどくなったりしている場合
  • 合併症(前立腺炎、精巣上体炎など)の疑いがある場合
  • 尿路の形に異常がありそうな場合

主な画像診断法は、超音波検査やCT検査などです。

これらの検査は、尿道の周りの炎症がどの程度か、合併症が起きていないかを確認するのに役立ちます。

尿道炎の治療法と処方薬、治療期間

尿道炎の治療は、原因となる病原体を正確に特定し、それに対して効果的な抗菌薬を選択し、症状の改善と再発防止を目指します。

淋菌性尿道炎の治療

淋菌性尿道炎の治療には、主にセフトリアキソンやスペクチノマイシンなどの抗菌薬が用いられます。

淋菌性尿道炎の主な治療薬と投与方法

薬剤名投与方法
セフトリアキソン筋肉内注射、単回投与
スペクチノマイシン筋肉内注射、単回投与
アジスロマイシン経口投与、単回または複数回

非淋菌性尿道炎の治療

非淋菌性尿道炎の治療には、主にアジスロマイシンやドキシサイクリンなどの抗菌薬が使用されます。

非淋菌性尿道炎の主な治療薬と投与方法

薬剤名投与方法
アジスロマイシン経口投与、単回または複数回
ドキシサイクリン経口投与、7日間
レボフロキサシン経口投与、7-14日間

治療期間

尿道炎の治療期間は、淋菌性尿道炎では単回投与の抗菌薬が多く使用されるため、治療期間は1日で済むケースが多いです。

一方、非淋菌性尿道炎では7日間から14日間程度の治療期間が必要となることがあります。

治療効果の判定

治療効果の判定は、症状の改善や検査結果に基づいて慎重に行われます。

治療効果判定の主なポイント

  • 排尿時痛や尿道分泌物の消失
  • 尿検査での白血球数の正常化
  • 病原体の検出がなくなること

治療中の注意点

尿道炎の治療中は、いくつかの点に注意を払う必要があります。

  • 処方された抗菌薬を指示通りに服用すること
  • 治療中は性行為を控えること
  • 十分な水分摂取を心がけること
  • アルコールや刺激物の摂取を控えること

パートナーの治療

尿道炎、特に性感染症による場合は、パートナーの治療も極めて重要で、パートナーも同時に治療を受けることで、再感染のリスクを大幅に減らせます。

予後と再発可能性および予防

尿道炎からの回復見込みは一般的に良好で、対応と予防策を取ることで、再び起こるリスクも大幅に減らすことが可能です。

しかし、治療が遅れたり不十分だったりすると、症状が長引いたり、他の病気を引き起こしたりする可能性があります。

尿道炎の回復見込みに影響を与える要因

尿道炎の回復見込みに影響を与える要因が影響

要因良好な回復見込み良くない回復見込み
原因となる病原体よくある細菌薬が効きにくい細菌
治療を始めるタイミング早い遅い
患者の免疫力高い低い
他の病気の有無なしあり

尿道炎が再び起こるリスク

尿道炎は、一度かかると再び起こるリスクが高まる感染症の一つです。

再発するリスク要因

  • パートナーが治療を受けていない
  • 治療期間が十分でない
  • 抗生物質が効きにくい細菌が出てきた
  • 性行為の頻度や方法
  • 個人の清潔習慣

特に、パートナーが治療を受けていないことは再発の大きな要因です。

再び起こった時の対応

尿道炎が再び起こった場合、以前と同じ治療法が必ずしも効果的とは限りません。

対応内容
再検査原因となる病原体を再確認する
薬の効き目を調べる検査効果的な抗生物質を選ぶ
パートナーの検査・治療再び感染することを防ぐ
生活習慣を見直す再び起こるリスクを減らす

何度も繰り返し起こる場合は、背景に他の病気や免疫力の低下などがないか、より詳しい検査が必要となることがあります。

尿道炎の予防方法

尿道炎を予防するには、いくつかの方法が効果的です。

  1. 安全な性行為を心がける(コンドームを使うなど)
  2. 個人の清潔を保つ(排尿後にきれいにする)
  3. 規則正しい生活と十分な睡眠をとる(免疫力を維持する)
  4. 適度に水分を取る(尿路を洗い流す効果がある)
  5. 定期的に性感染症の検査を受ける(症状がなくても早期発見できる)

これらの予防方法を日常生活に取り入れることで、尿道炎のリスクを大幅に減らせます。

尿道炎の治療における副作用やリスク

尿道炎の治療で使われる薬剤には、多様な副作用やリスクが付随します。

抗菌薬による副作用

尿道炎の治療で最も頻繁に使用される抗菌薬には、さまざまな副作用があります。

主な抗菌薬と代表的な副作用

抗菌薬主な副作用
セフトリアキソンアレルギー反応、下痢
アジスロマイシン胃腸障害、肝機能障害
ドキシサイクリン光線過敏症、歯の着色

アレルギー反応のリスク

抗菌薬によるアレルギー反応は、軽微なものから生命を脅かす重篤なものまで多岐にわたります。

特に、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬では、アナフィラキシーショックのリスクがあるため、十分な注意が必要です。

アレルギー反応の症状

  • 発疹や蕁麻疹
  • 呼吸困難
  • 血圧低下
  • 意識障害

耐性菌出現のリスク

抗菌薬の乱用は、耐性菌の出現を招く可能性があります。

主な耐性菌と特徴

耐性菌特徴
MRSAメチシリン耐性黄色ブドウ球菌
VREバンコマイシン耐性腸球菌
ESBL産生菌基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生菌

薬物相互作用のリスク

尿道炎の治療に使用される抗菌薬は、他の薬剤と相互作用を引き起こすことがあります。

特に注意が必要な薬物相互作用

  • マクロライド系抗菌薬とワルファリンの相互作用
  • キノロン系抗菌薬と制酸剤の相互作用
  • テトラサイクリン系抗菌薬と乳製品の相互作用

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

初診と2回目以降の診察料

初めて診てもらう時は3,000円くらい、2回目以降は1,000円くらいです。

項目自己負担額(3割負担の場合)
初めて診てもらう時900円~1,200円
2回目以降300円~400円

検査にかかる費用

尿の検査や細菌を調べる検査などが行われます。

検査の種類自己負担額(3割負担の場合)
尿の検査150円~300円
細菌を調べる検査600円~900円

治療と薬にかかる費用

尿道を洗う治療が行われることがあり、費用は500円~1,000円程度で、抗生物質は、種類や量によって違いますが、1回の診察で1,000円~3,000円ほどです。

以上

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