熱性けいれん – 脳・神経疾患

熱性けいれん(febrile seizures)は、乳幼児期に高熱に伴って生じる発作性の神経症状です。

体温の急激な上昇により、中枢神経系の興奮性が一時的に亢進することで起こります。

主に生後6か月から5歳までの小児に発症し、全身の筋肉の痙攣や意識障害を伴い、持続時間は数分程度ですが、15分以上続く複雑型熱性けいれんもあります。

熱性けいれんは脳の発達過程における一過性の現象で、年齢とともに自然消失しますが、初回発作時は、てんかんや髄膜炎などの疾患との鑑別が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

熱性けいれんの種類(病型)

熱性けいれんには、単純型と複雑型の病型があります。

単純型熱性けいれん

単純型熱性けいれんは、熱性けいれんの中で最もよく見られる形態です。

単純型のけいれんは5分以内に自然に収まり、24時間以内に繰り返すことはなく、また、発作後に神経学的な異常が認めらません。

単純型の特徴として、全身性のけいれんが挙げられ、意識消失を伴うことが多いですが、長期的な合併症のリスクは低いです。

特徴詳細
持続時間5分以内
再発24時間以内になし
タイプ全身性
意識消失することが多い
発作後の状態神経学的異常なし

複雑型熱性けいれん

複雑型熱性のけいれんは15分以上続くことがあり、24時間以内の再発、意識消失の時間が長引くこともあります。

複雑型の特徴は、部分的なけいれんや、発作後の一時的な神経学的異常(片側の手足が一時的に動きにくくなるなど)です。

複雑型熱性けいれんの診断

  • 15分以上続く発作
  • 24時間以内の再発
  • 部分的なけいれん(体の一部のみが影響を受ける)
  • 発作後の一時的な神経学的異常(片側の麻痺など)
項目単純型複雑型
持続時間5分以内15分以上の場合あり
24時間以内再発なしあり得る
けいれんの型全身性部分的な場合あり
発作後の状態正常一時的異常の場合あり

熱性けいれんの主な症状

熱性けいれんは、高熱に伴って突然発症する全身性けいれんで、意識消失、筋緊張の亢進、四肢の律動的な動きが現れます。

発症のメカニズムと特徴的な症状

熱性けいれんは、体温の急激な上昇により脳の興奮性が一時的に高まること起き、発熱から24時間以内に生じる神経系の反応です。

主な症状

  • 全身の筋肉の硬直と緊張
  • 四肢や体幹の律動的な痙攣運動
  • 意識の完全な消失
  • 眼球の上方への偏位(上転)
  • 唾液の分泌増加と口腔内の泡沫形成

単純型では症状は数分間持続した後自然に収束し、その後徐々に意識が回復していきます。

発作後の症状と回復過程

熱性けいれんの発作が収まった後、一時的に様々な症状が現れます。

症状持続時間特徴
意識障害数分〜1時間程度徐々に回復
嘔吐発作直後一過性
倦怠感数時間〜1日程度緩やかに改善
頭痛数時間年長児で訴えあり

発作後は、短時間の意識障害や嘔吐が生じることがあり、脳の一時的な機能低下や自律神経系の乱れが原因です。

また、全身の倦怠感が数時間から1日程度続き、これは発作による身体的な疲労の表れです。

頭痛を訴えることもありますが、時間の経過とともに自然に軽快していきます。

熱性けいれんの再発と年齢による特徴

熱性けいれんは、一度経験した患者さんの約3分の1で再発します。

再発のリスクを高める要因

・初回発作が1歳未満で起こった場合

・熱性けいれんの家族歴が存在する場合

・発熱から極めて短時間でけいれんが誘発される場合

年齢の推移に伴い熱性けいれんの発症リスクは変化し、年齢が上がるにつれて低下していきます。

年齢区分発症リスク特記事項
6か月〜1歳最も高い脳の発達過程で感受性が高い
1〜3歳中程度徐々にリスクが低下
4〜5歳低い発症はまれになる
5歳以降極めて低いほとんど見られない

5歳を過ぎると熱性けいれんの新規発症は極めてまれになり、これは脳の発達と熱に対する耐性の獲得によるものです。

熱性けいれんの原因

熱性けいれんの原因は、急激な体温上昇による脳機能の一時的な混乱で、これに遺伝的要因や年齢、感染症などの要素が絡み合って発症します。

体温上昇と脳機能

通常、体温が38度以上に上昇すると脳の興奮性が高まり、けいれんを起こす閾値(発作が起こるギリギリの限界点)が低下します。

この現象は、特に乳幼児期の未熟な脳において顕著に見られ、外部環境の変化に対して敏感な反応を示します。

脳の温度調節機能が未発達な乳幼児は、体温の急激な変化に対して対応できず、熱性けいれんが誘発されやすくなるのです。

体温脳への影響
38度以上脳の興奮性が高まる
39度以上けいれんの閾値が大幅に低下

遺伝的要因

熱性けいれんの発症には、遺伝的な要因も関与しています。

親や兄弟姉妹に熱性けいれんの既往がある場合、その子どもが熱性けいれんを起こす可能性は2~3倍です。

また、特定の遺伝子変異が熱性けいれんの発症リスクを高めることも分かってきました。

遺伝的要因リスク増加
家族歴あり2~3倍
特定遺伝子変異個人差あり

感染症と免疫反応

多くの場合、熱性けいれんは感染症に伴う発熱により起こります。

ウイルス感染や細菌感染に対する体の免疫反応が、体温上昇の原因となり、熱性けいれんが誘発されるのです。

関連のある感染症

  • インフルエンザ(毎年流行する呼吸器感染症)
  • ヒトヘルペスウイルス6型(突発性発疹の原因ウイルス)
  • アデノウイルス(上気道炎や結膜炎の原因となるウイルス)
  • 溶連菌感染症(のどの痛みや発熱を引き起こす細菌感染)

年齢と脳の発達

熱性けいれんは6か月から5歳までの子どもに多く見られ、1歳前後でピークを迎えます。

年齢特徴
6か月~1歳発症リスクが急増
1歳~3歳最も発症頻度が高い時期
3歳~5歳徐々にリスクが低下

この時期の脳は、神経回路の形成や髄鞘化(神経線維を覆う絶縁体の形成)が活発に行われており、外部刺激や体温変化に対して敏感な状態です。

診察(検査)と診断

熱性けいれんの診断は病歴聴取と身体診察を基本とし、補助的検査を実施しながら、他の疾患を除外することで確定診断に至ります。

診断の基本的アプローチ

熱性けいれんの診断において最も重要視されるのは、患者さんやご家族から聴取する病歴と、身体診察です。

注目する点

  • 発熱の経過と程度
  • けいれんの様子(持続時間、全身性か局所性か、意識状態の変化など)
  • 過去の既往歴や家族歴(熱性けいれんやてんかんの有無)
  • 普段の発達状況や健康状態

身体診察

身体診察では、全身状態の評価と神経学的診察が中心です。

診察項目確認ポイント臨床的意義
バイタルサイン体温、心拍数、呼吸数、血圧全身状態の把握
意識状態覚醒度、応答性、見当識中枢神経系の機能評価
神経学的所見瞳孔反射、筋力、腱反射、病的反射局所神経症状の有無

髄膜刺激症状(項部硬直、ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候など)の有無を確認することが大切で、髄膜炎や脳炎などの重篤な中枢神経系感染症を示唆します。

補助的検査

典型的な熱性けいれんでは詳細な検査は不要ですが、非典型的な症状を呈する場合や初回発作時には、検査を選択的に実施することがあります。

検査項目目的判断基準
血液検査炎症反応、電解質異常の評価白血球数、CRP、Na、K、Ca等
尿検査尿路感染症の除外白血球、亜硝酸塩、細菌
髄液検査髄膜炎の鑑別細胞数、蛋白、糖、培養
脳波検査てんかんの鑑別(複雑型の場合)発作波の有無
頭部CT/MRI頭蓋内病変の除外構造異常、出血、腫瘍等

鑑別診断の重要性

熱性けいれんの診断では、他の重篤な疾患との鑑別が必要です。

  • 細菌性髄膜炎 高熱、激しい頭痛、項部硬直が特徴的で、致命的な可能性があるため、早期診断が不可欠。
  • ウイルス性脳炎 意識障害の進行や局所神経症状を伴うことが多く、MRIでの特徴的な所見が診断の助けに。
  • てんかん 非発熱時にもけいれんが生じる点が熱性けいれんと異なり、脳波検査が診断に重要な役割。

熱性けいれんの治療法と処方薬、治療期間

熱性けいれんの治療は抗てんかん薬の投与や解熱剤の使用、また患者さんの年齢や症状に合わせた長期的な経過観察が含まれます。

発作時の対応

熱性けいれん発作時の対処法は、患者さんの安全確保と観察が中心です。

発作中は、患者さんを横向きに寝かせ、頭部を軽く持ち上げた姿勢を保つことで、気道確保と誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ってしまうこと)防止につながります。

さらに、周囲の危険物を取り除き、衣服を緩め、呼吸を確保することが大切です。

発作が5分以上続くときは、遷延性(せんえんせい:長引くこと)発作の可能性があるため、医療機関への搬送が必要となります。

対応内容
姿勢横向きに寝かせる
環境危険物を除去
衣服緩める
呼吸確保する

解熱療法

熱性けいれんは高熱に伴って起こるため、解熱療法が重要な役割を果たします。

アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬を使用し、体温を下げることで発作のリスクを軽減します。

薬剤は、脳の体温調節中枢に作用し、発熱の原因となる物質の産生を抑制することで解熱効果を発揮。

ただし、解熱剤の使用だけでは発作を完全に予防することはできません。

解熱療法はあくまでも総合的な治療アプローチの一部で、他の対策と併用することで最大の効果を発揮します。

抗てんかん薬の使用

再発リスクの高い患者さんや複雑型熱性けいれんの場合、抗てんかん薬が処方されます。

使用される薬剤は、ジアゼパム、フェノバルビタール、バルプロ酸ナトリウムなどです。

薬剤は、脳の過剰な興奮を抑制し、けいれんの発生を予防する効果があります。

ジアゼパムは、発熱時に直腸内に投与する坐薬として用いられることが多く、即効性があり、急な発熱時に速やかにけいれんを予防したい場合に有用です。

フェノバルビタールやバルプロ酸ナトリウムは、長期的な予防投与に使用され、脳の興奮性を安定的に抑制し、熱性けいれんの再発リスクを低下させます。

抗てんかん薬用途
ジアゼパム発熱時の即時予防
フェノバルビタール長期的な予防投与
バルプロ酸Na長期的な予防投与

治療期間

多くの場合、5歳を過ぎると自然に発作が起こりにくくなるため、それまでの期間が治療の目安です。

単純型熱性けいれんの場合、長期的な薬物療法は必要ありません。

複雑型熱性けいれんや再発リスクの高い患者さんでは、数か月から数年にわたる継続的な治療が行われます。

長期治療は、脳の発達が完了し、熱性けいれんのリスクが十分に低下するまで継続されることが多いです。

熱性けいれんの治療における副作用やリスク

熱性けいれんの治療には、抗てんかん薬の使用や解熱剤の投与が含まれ、薬剤には副作用やリスクが伴います。

抗てんかん薬の副作用

長期的な抗てんかん薬の使用は、熱性けいれんの再発予防に一定の効果を示すものの、副作用のリスクがあります。

薬剤名副作用対処法
フェノバルビタール眠気、集中力低下、過敏症投与量の調整、服用時間の変更
バルプロ酸肝機能障害、血小板減少、体重増加定期的な血液検査、食事指導
カルバマゼピン眠気、めまい、皮疹漸増投与、アレルギー症状の観察

解熱剤使用に伴うリスク

解熱剤の使用は熱性けいれんの予防には効果が限定的で、過剰な使用は以下のようなリスクを伴います。

  • 薬剤性肝障害特に、アセトアミノフェンの過剰投与時に起こりやすく、重篤な場合は肝不全に至ることも。
  • 腎機能障害NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の長期使用や高用量投与時に発生するリスク。
  • 胃腸障害NSAIDsの使用により、胃粘膜保護機能が低下し、胃潰瘍などの消化器症状が現れる。
  • マスキング効果発熱の原因となる感染症の重要な症状を隠してしまい、診断の遅れにつながる恐れがある。

解熱剤の使用は熱性けいれんの予防よりも、患者さんの不快感を軽減し、全身状態を改善する目的で、用量と使用頻度を守って行われるべきです。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療費

診察料や処方箋料を含めた外来診療費は、約1,000円から3,000円程度です。

検査費用

検査費用の目安

検査項目自己負担額(3割負担の場合)
血液検査1,500円~3,000円
脳波検査3,000円~5,000円
CT検査4,000円~8,000円

薬剤費

熱性けいれんの治療に使用される薬剤の費用

  • 解熱剤(アセトアミノフェン等) 300円~500円
  • 抗てんかん薬(ジアゼパム坐薬等) 500円~1,000円

入院費用

複雑型熱性けいれんや経過観察が必要な場合、入院が必要になることがあります。

入院期間自己負担額(3割負担の場合)
1日5,000円~10,000円
3日15,000円~30,000円

以上

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