胃食道逆流症(GERD) – 消化器の疾患

胃食道逆流症(Gastroesophageal reflux disease:GERD)とは、胃の内容物が食道へ逆流することで起こる消化器系の疾患です。

この状態が長期間にわたって続くと、食道に炎症や損傷が生じ、胸やけや呑酸(胃酸が食道を逆流して喉まで上がってくる不快な感覚)などの症状が出てきます。

近年、食生活の欧米化や生活習慣の変化に伴い、GERDは増加傾向にあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

胃食道逆流症(GERD)の種類(病型)

胃食道逆流症(GERD)は、内視鏡検査によって「びらん性GERD(逆流性食道炎)」と「非びらん性GERD」の2つに大別されています。

びらん性GERD(逆流性食道炎)

びらん性GERDは、内視鏡検査で食道粘膜に明らかな炎症やびらん(粘膜表面の浅い傷)が確認されるものです。

「逆流性食道炎」という名前のほうが、一般的に馴染みのある病名かもしれません。

びらん性GERDの重症度はLos Angeles分類という国際的な基準で評価し、びらんの長さや範囲に応じてGrade A〜Dの4段階に分けられています。

Gradeびらんの特徴
A5mm以下のびらんが1個以上
B5mm以上のびらんが1個以上、かつ粘膜ひだの頂点を超えない
C粘膜ひだの頂点を超えるびらんがあるが、全周の75%未満
D全周の75%以上を占めるびらん

びらん性GERDは、一般的に症状が強く、治療への反応も比較的良好です。

重症度が高いほど、バレット食道(食道下部の粘膜が胃型に変化する状態)や食道腺癌などの合併症のリスクが高くなる傾向がみられます。

非びらん性GERD

非びらん性GERDは、典型的なGERDの症状がありながら、内視鏡検査では明らかなびらんや炎症が確認されない病型です。

機能性胸やけ(Functional Heartburn)とも呼ばれることがあり、症状と内視鏡所見が一致しない特徴があります。

非びらん性GERDの患者さんは、びらん性GERDと比べて以下のような特徴がみられます。

  • 症状の程度が軽い傾向にあります
  • 食道外症状(咳、喘息、咽頭痛など)が多くみられます
  • 精神的ストレスとの関連が強い傾向があります
  • 治療への反応が比較的悪いことがあります

病型による治療方法の違い

病型主な治療アプローチ
びらん性GERD
(逆流性食道炎)
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の標準用量投与
・生活習慣の改善
非びらん性GERD・PPIの少量投与
・生活習慣の改善
・消化管運動改善薬の併用
・抗不安薬や抗うつ薬の併用を検討

胃食道逆流症(GERD)の主な症状

胃食道逆流症(GERD)の主な症状は、胸やけや呑酸(酸っぱい液体の逆流)などで、食後や就寝時に悪化します。

GERDの代表的な症状

胃食道逆流症(GERD)で最も一般的な症状は、胸やけです。

食事の内容や量によって症状の強さが左右されることが多く、特に脂っこい食事や、大量の食事を摂取した後に顕著に現れます。

また、横になったときや、前かがみの姿勢をとったときにも症状が強くなります。

もう一つの特徴的な症状として、「呑酸」があります。これは胃酸が食道に逆流することで、口の中に酸っぱい液体が上がってくるものを指します。

症状特徴患者さんの感覚
胸やけ胸骨後部の灼熱感や痛み「胸が焼けるような感じ」
呑酸酸っぱい液体の逆流感「口の中に酸っぱいものが上がってくる」

その他の症状

  • 喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーする呼吸音)
  • 声のかすれ
  • 喉の痛みや違和感、詰まり感
  • 歯の表面がすり減るエナメル質の損傷

症状の程度と頻度

軽度のGERDの場合は、週に1〜2回胸やけが起こる程度ですが、重度になると毎日のように強い症状に悩まされ、食事や睡眠、仕事などの日常生活に影響が出てきます。

このような場合は、早急に治療を受けることが必要です。

症状の程度頻度生活への影響対処法
軽度週1〜2回軽微生活習慣の改善で対応可能
中等度週3〜4回やや支障あり医療機関での相談が望ましい
重度ほぼ毎日著しい支障あり早急な医療機関受診が必要

また、以下のような要因で症状が悪化することがあります。

  • 食後すぐに横になること
  • 過食や早食いの習慣
  • アルコールの過剰摂取
  • 喫煙
  • ストレスの増加

胃食道逆流症(GERD)は、放置すると食道炎や食道狭窄などの合併症を起こす可能性もあります。症状が長期間持続する、あるいは徐々に悪化していく場合は、できるだけ早めに医療機関を受診するようにしてください。

胃食道逆流症(GERD)の原因

胃食道逆流症(GERD)の主な原因は、下部食道括約筋(LES)の機能不全と胃内容物の逆流です。

下部食道括約筋とは

下部食道括約筋(LES)とは、食道と胃の接合部にある筋肉の輪で、胃の内容物が食道に逆流するのを防ぐ役割をしています。

この筋肉が正しく機能しないと、胃酸や消化物が食道に逆流し、不快な症状や合併症を引き起こします。

LESの機能不全を起こす要因

生活習慣とGERDの関連性

過食や食後すぐの横臥、締め付けの強い衣服の着用などは、胃内容物の逆流を促進します。

特に注意が必要なのは、以下の食品や飲料の過剰摂取です。

  • アルコール
  • カフェイン
  • チョコレート
  • 柑橘系の果物
  • トマトベースの食品
  • 脂肪分の多い食事

このような食品や飲料は、LESの弛緩や胃酸の分泌増加の原因となるため、GERDの症状を悪化させてしまいます。

ストレスと消化器系の関係

現代社会では、多くの人がストレスを抱えています。

ストレスを感じると、体の中では様々な変化が起こります。その中には、胃酸がたくさん分泌されたり、食べ物が食道へ逆流しやすくなるような変化も含まれています。

これらが原因となり、GERDの発症や症状の悪化につながることがあります。

特に、長期間にわたって強いストレスを感じている場合、逆流性食道炎の症状がひどくなる傾向があります。

薬剤とGERDの関連

一部の薬剤もGERDの原因となることがあります。

薬剤群GERDへの影響
カルシウム拮抗薬LESの弛緩を引き起こす
抗コリン薬食道のクリアランス(自浄作用)を低下させる
ビスホスホネート食道粘膜に直接刺激を与える
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)胃粘膜保護機能を低下させる

解剖学的要因

主な解剖学的リスク因子は以下の通りです。

解剖学的要因GERDへの影響
食道裂孔ヘルニアLESの位置異常による機能不全を引き起こす
短い腹部食道逆流防止機構の脆弱化につながる
食道蠕動運動の低下胃酸のクリアランスを低下させる

診察(検査)と診断

胃食道逆流症(GERD)の診断では、内視鏡検査、24時間pHモニタリング検査などを行い、症状と逆流の関連性を確認します。

内視鏡検査

内視鏡検査では、食道粘膜の状態を直接観察し、びらんや潰瘍の有無を調べます。

また、バレット食道(胃酸の逆流により食道下部の粘膜が腸上皮化生を起こした状態)の有無も評価できるため、合併症のリスク評価にも有用です。

内視鏡所見重症度
びらんなし軽症
軽度のびらん(粘膜の一部に限局)中等症
広範囲のびらんや潰瘍重症

ただし、内視鏡所見が正常であってもGERDを完全に否定できるわけではないため、他の検査結果や症状と併せて総合的に判断する必要があります。

食道内pHモニタリング検査

食道内pHモニタリング検査では、細いカテーテルを鼻から挿入し、下部食道のpHを24時間以上にわたって連続的に測定します。

  • pHが4以下になる時間の割合(酸逆流時間)
  • 逆流の回数(酸逆流回数)
  • 最長逆流時間(最長の酸逆流持続時間)

胃酸の逆流の頻度や程度などの検査結果をもとに、GERDの重症度や病態を評価していきます。

食道内圧検査

食道内圧検査は、食道の運動機能を評価する検査方法です。

特に非典型的な症状を呈する患者さんや、通常の治療に抵抗性を示すGERDの評価に有用です。

検査項目評価内容
下部食道括約筋圧胃内容物の逆流を防ぐ機能の評価
食道体部の蠕動波逆流した内容物を胃に戻す能力の評価
上部食道括約筋機能嚥下(えんげ)機能の総合的な評価

胃食道逆流症(GERD)の治療法と処方薬、治療期間

胃食道逆流症(GERD)の治療では、生活習慣の改善、薬物療法、場合によっては手術も検討していきます。

薬物療法

GERDの薬物療法では、主にプロトンポンプ阻害薬(PPI)や制酸薬を使用します。PPIは胃酸の分泌を抑制し、食道の炎症を軽減する効果があります。

また、制酸薬は即効性があり、胸やけなどの症状を素早く緩和します。

薬剤名主な効果使用タイミング特徴
PPI胃酸分泌抑制毎日服用長期的な効果
制酸薬即効性の症状緩和症状出現時速やかな症状改善

生活習慣の改善

薬物療法と並行して、生活習慣の改善を指導します。

  • 就寝前3時間は食事を控える
  • 脂肪分の多い食事を避ける
  • アルコールや炭酸飲料の摂取を減らす
  • 禁煙を心がける
  • 食後はすぐに横にならず、30分程度は座位を保つ

治療期間

GERDでは、通常4〜8週間の初期治療を行い、その後の経過を見ながら治療方針を調整していきます。

症状が改善した後も、再発防止のために維持療法を継続する場合があります。

治療段階期間主な内容目的
初期治療4〜8週間薬物療法+生活改善症状の急速な改善
維持療法数ヶ月〜数年症状に応じて調整再発防止と長期管理

手術について

薬物療法や生活習慣の改善で十分な効果が得られない場合、手術療法を検討します。

腹腔鏡下噴門形成術下部食道括約筋(食道と胃の境目にある筋肉)を強化し、胃酸の逆流を防ぐ手術です。

胃食道逆流症(GERD)の治療における副作用やリスク

胃食道逆流症(GERD)の治療薬には、吐き気、下痢、便秘、頭痛などの副作用や、長期的な使用による骨の強度低下などのリスクが報告されています。

薬物療法に伴うリスク

プロトンポンプ阻害薬(PPI)(胃酸の分泌を抑える薬)は、継続的な服用により骨密度の低下や腎機能障害のリスクが高まることが報告されています。

また、H2受容体拮抗薬(胃酸の分泌を抑える別タイプの薬)の長期使用は、頭痛や消化器症状などの副作用があります。

薬剤主な副作用
プロトンポンプ阻害薬(PPI)骨密度低下、腎機能障害
H2受容体拮抗薬頭痛、消化器症状

手術療法に伴うリスク

  • 感染
  • 出血
  • 麻酔に関する合併症

この他、術後合併症として、嚥下困難(飲み込みにくさ)や膨満感、おならが出にくくなるなどの症状が現れることがあります。

長期的な合併症のリスク

合併症主な症状
バレット食道食道粘膜の変化(内視鏡検査で確認)
食道腺癌嚥下困難、体重減少、胸痛
食道狭窄嚥下困難、つかえ感
食道潰瘍胸痛、嚥下時痛、吐血

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

胃食道逆流症(GERD)の治療費は保険適用となるため、自己負担額は3割程度となります。

外科手術が必要な場合は、医療費が高額になることがあります。

薬物療法にかかる費用

一般的に使用される薬剤とその費用は以下の通りです。

薬剤の種類1ヶ月あたりの費用
制酸薬2,000〜5,000円
H2受容体拮抗薬3,000〜8,000円
プロトンポンプ阻害薬5,000〜15,000円

内視鏡検査の費用

  • 上部消化管内視鏡検査基本料:11,400円
  • 画像診断料:2,200円
  • 病理診断料(必要な際):4,600円

手術療法(腹腔鏡下逆流防止術)の費用例

項目費用
手術料267,700円
入院費(7日間)147,000円
麻酔料53,800円

以上

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